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小林啓一監督『殺さない彼と死なない彼女』(2019年)

少年「ああ死にたい」
博士「また困っておるようじゃの」
少年「どうしたらいいんだろう」
博士「今回は小林啓一監督の『殺さない彼と死なない彼女』(2019年)を観てはどうかの』
少年「どんな内容なの?」
博士「三組の高校生の恋愛物語が同時進行して、最後には収束していくんじゃ」
少年「ふうん」
博士「1組目はリストカットの習慣があって自殺願望が強い鹿野ななと、「死ね」「殺すぞ」が口癖のぶっきらぼうな小坂れい。これがメインのカップルじゃ」
少年「リストカット? 怖い!」
博士「血が流れる場面は出てこないから大丈夫じゃ。小坂れいを演じる間宮祥太朗は、『仮面ライダーBLACK』の頃の倉田てつをを思いださせるイケメンじゃ。
少年「ふうん」
博士「2組目は草食系男子の八千代と彼に何度も告白しては受けいれてもらえない撫子のカップル。3組目はカップルでなく、モテ女子のきゃぴ子と地味女子の地味子の友だち同士じゃ」
少年「なんだか名前がへんな気がする」
博士「もとは世紀末というペンネームの描き手がツイッターに投稿した四コママンガじゃな。メインカップルは、原作のマンガじゃと「殺さない彼」と「死なない彼女」という名前で出てくるんじゃが、ちらっとだけさっきの名前も見えるコマがあるんじゃよ」
少年「あっ! 小坂れいと鹿野ななってよく聞くと」
博士「そうじゃ。「カレ」「カノ」と入っておるの」
少年「八千代と撫子は原作だとなんていう名前?」
博士「八千代はそのままじゃが、撫子は「君が代」じゃった。一部の方面に配慮して、こりゃまずいということで、ほかの和風を意味する名前の「撫子」になったんじゃろう。ヤマトナデシコじゃな」
少年「きゃぴ子と地味子は?」
「このふたりは原作のままじゃ。じゃあ、パソコンに映像を映し出すぞい
(123分経過)
博士「どうじゃった?」
少年「途中でちょっと眠くなった」
博士「途中までいかにも邦画らしく「空気感」重視のチンタラした展開じゃからな」
少年「うん。女の子たちの喋り方もなんかへんだった」
博士「原作では、ヘタな絵柄と古風なセリフ回しを使いながらレトロな雰囲気を高めておるんじゃ。わしは原作ではそれはまあまあうまく行ったと思っとる。じゃが実写では画面がぜんぜん違うわけじゃから、あの言葉遣いを踏襲したのは、賛否あるじゃろうな」
少年「うん」
博士「でもどことなく浮世離れした、非現実的な空間が広がっておったじゃろ。それをねらったんだと思うのう」
少年「そうなんだね」
博士「おぬし、そうやって不満を言いつつ泣きはらした顔をしとるじゃないか」
少年「あんな展開になると思わなかったから」
博士「観おわってみると、『殺さない彼と死なない彼女』というタイトルの意味に納得という感じじゃよな」少年「博士は嘘つきだ」
博士「なにがじゃ」
少年「「血が流れる場面は出てこないから大丈夫じゃ」って言ってたけど、しっかり出てきた」

直後の唐突な展開が衝撃的

博士「ああ、そうかそうか。リストカットで血を流す場面はないと言いたかったんじゃ」
少年「でも泣いていると、死にたい気分が薄らぐような気がした」
博士「それは良かった。泣くと心に浄化作用が起きるからの。死にたいときは、たくさん泣くと良いぞい」
少年「ぼくつらくてよく泣くけど、よけいに死にたくなるよ」
博士「言葉が足りなんだの。じぶんの悩みで泣くのはダメじゃ。それでは、よけいにつらくなってしまう。悲しい映画を観て泣くのが「効く」のじゃ」
少年「どういう仕組みなの」
博士「じぶん以外のことのために流す涙は、じぶんの苦しみを取りのぞいてくれるものじゃ。じぶんの問題から気を逸らせてくれ、悩みを意識の彼方へとさらっていってくれるのじゃ」
少年「そういうものなんだ」
博士「そうじゃ」
少年「博士はさっきこの映画のこと、途中までチンタラしてるって言ってたけど、ぼくもたしかに眠くなったんだけど、でも嫌いな感じじゃなかったよ」
博士「なるほど、なるほど。同じ小林啓一監督の『逆光の頃』もおすすめできそうじゃ。マルチクリエーターとして有名なタナカカツキのマンガを映像化したものじゃ。京都が舞台になっておる」
少年「そうなんだ。それは死にたい気持ちが弱まる映画?」
博士「うーん。どうじゃろうか。わしにはそんなに効き目があるかどうか、ようわからんかったの。タナカカツキの作品には、効き目がありそうなものがたくさんあるのじゃが」
少年「読んでみようかな」
博士「『オッス!トン子ちゃん』が、わしは好きじゃな。マンガではないが『部屋へ!』もすごい。水草水槽の魅力をよく伝えておる。コップのフチコさんで遊んだり、大阪に行って太陽の塔を眺めたりするのも良いぞ。どちらもタナカカツキが流行させたんじゃ。『サ道』から広まったサウナブームも手柄じゃな」
少年「そんなにいろいろなものの仕掛け人なんだ。ぼくもマルチクリエーターになりたいな」
博士「大きな目標ができれば、死にたい気持ちは弱まりそうじゃのう」


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