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S・S・ラージャマウリ監督『RRR』(2022年)

少年「ああ死にたい」
博士「これこれどうしたんじゃ」
少年「博士、ぼくは死にたいのです」
博士「そういうことなら、映画を観にいこう」
少年「なんていう映画?」
博士「『RRR』って言うんじゃよ」
少年「どんな映画なの」
博士「インド独立のために戦ったふたりの男をモデルにしたフィクションじゃよ」
少年「フィクションって何」
博士「作り話のことじゃ」
少年「歴史はあんまり好きじゃないんだけど」
博士「歴史の知識はそんなになくても大丈夫じゃ。とりあえず正義の味方がインド人で悪の組織がイギリスだということだけわかっとけば、理解できるわい」
(映画館で3時間経過)
博士「どうじゃったかな」
少年「なんだか、死にたい気持ちが弱まった気がする」
博士「それは良かった」
少年「でも怖い場面がたくさんあったよ」
博士「あの映画はなぜ全年齢対象(G)なんじゃろうかの」
少年「『鬼滅の刃』の「無限列車編』はPG12だったから、ぼく劇場で観られなかったんだよ。あとからネット配信でこっそり観たけど」
博士「あの映画でPG12なんだったら、『RRR』はR15+でも足りんかもしれんの」
少年「でもおかげでぼく観ることができたから良かったです」
博士「いずれの場面が良かったかの?」
少年「最初から最後まで好きな場面だらけ。でも、やっぱり終わりらへんで、主人公のふたりが無双状態になるところにはスカッとした」
博士「あのくだりに至るまで、ふたりはこれでもかというほど痛めつけられるから、開放感がすごいんじゃよな」
少年「ラーマとビームが戦って、ラーマがビームを鞭の刑にして、ラーマとビームが殺しあおうとして。ずっと悲しくなってた」
博士「泣きそうになる気持ちがこれでもかと溜められていくから、ふたりの気持ちがふたたび通じあって、無敵の進軍をするところから興奮の洪水が決壊する仕組みなんじゃな」
少年「悪いイギリス人がコテンパンにやられていって、スカッとしたよ」
博士「ブリカスが痛い目にあう映画は、いつ観ても心がすがすがしくなるわい」
少年「ラーマとビームの回復力がすごいと思った」
博士「ふたりとも超人じゃ。こりゃ致命傷じゃろと思うようなケガを何度もしてるのに、かんたんな手当を受けただけで復活して、ピンピンしとる」
少年「ぼくはちょっとケガをしたって、あんなにすぐに治らないよ」
博士「あの無茶な非現実感も、人間の持つ健康の力を錯覚させながら、わしらを心地よくしてくれるんじゃよな」
少年「こんなに長い映画を観たのは初めてだったけど」
博士「179分じゃもんな。ギリギリ3時間に届かないくらいじゃ。インド映画は長いのが多いんじゃよ」
少年「途中で「休憩」の表示が出たのに、休憩にならなかった」
博士「日本でインド映画をやると、たいていそうなってしまうの」
少年「あとは絵が不思議だった。途中で止まったり、スローモーションになったり。日本とかアメリカとかの映画と、なんか違う感じ」

大興奮のスローモーション場面

博士「あのケレン味のある画面がインド映画の魅力じゃな。活劇を観ている気分になる。歌舞伎の見栄を思わせるコマが多い石ノ森章太郎とか車田正美のマンガとかにも似とる」
少年「踊りの場面はヘンテコだった。すごい迫力だったけど」
博士「群舞はインド映画の醍醐味じゃな。慣れていないと人工的に見えて違和感があるようじゃけど」
少年「見慣れると、そうでもないのかな」
博士「そもそもフィクションは、どんなものでもローカルな人工的要素があるもんじゃ。わしは日本のテレビドラマを観とると、あちこち「日本風の人工」を感じてしんどくなるけどの」
少年「ディズニー・アニメでも日本のアニメでもそう感じる人は多そう」
博士「そうじゃな。わしは長年、日本のリミテッド・アニメのファンだっただけに、ぐにゃぐにゃ動くディズニー・アニメが気持ち悪く感じて、楽しめなかったもんじゃ」
少年「とにかくもっとインド映画を観たくなったよ。博士のおすすめはある?」
博士「定番の名作じゃが、​​ラージクマール・ヒラーニ監督の『きっと、うまくいく』(2009年)も「死ぬ気が弱まる映画」候補じゃ」
少年「どんな話なの」
博士「三人の大学生の友情物語じゃ。主人公を演じたアーミル・カーンがとにかく魅力的なんじゃな。あと、この作品にはどんでん返しがあっておもしろいぞ」
少年「ふうん。観てみようかな」
博士「あとは​​『アディティヤ・チョープラー監督の『勇者は花嫁を奪う』(1995年)もおすすめじゃ」
少年「かっこいいタイトル。『ドラクエ5』みたいな話?」
博士「その歳で『ドラゴンクエストV〜天空の花嫁』なんてよく知っとるの」
少年「スマホ版で最近やってたんだ」
博士「日本では『シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦〜花嫁は僕の胸に』というタイトルで上映されたんじゃ」
少年「かっこわるい......」
博士「インドでは大ヒットしたんじゃが、日本では知る人ぞ知る作品じゃな。なぜかDVDもBlu-rayも発売されておらん」
少年「どうやったら観られるの?」
博士「海外のオンラインストアから北米版を輸入するんじゃ。英語の字幕を観ながら鑑賞することなる」
少年「英語ってやっぱり重要なんだね」
博士「所詮はブリカスの言語じゃが、いまの地球でいちばん重要な言語じゃというのはまちがいないわい」
少年「『RRR』は言葉もかっこよかったよ」
博士「わしもテルグ語はぜんぜん知らんかった。調べてみると、九〇〇〇万人から一億人に近い話者がいるようじゃ」
少年「その数だと、日本語が少しだけ勝ってるね」
博士「一〇年前のデータも見てみたら、八〇〇〇万人ちょっとじゃったから、これからあっという間に抜かれると思うぞ」
少年「あの言葉を勉強しようと思ったら、死にたい気持ちがますます減る気がする」
博士「『RRR』を気に入ってもらえて良かったわい」
少年「ところで博士」博士「ん? なんじゃな?」
少年「ちゃんとしたおとなは、「ブリカス」なんていう汚い言葉を使っちゃいけないんだよ」
博士「むむっ。これは一本、取られたのう」


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