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道具によって感覚を増幅・拡張する

今日は『触楽入門 -はじめて世界に触れるときのように-』(著:テクタイル)から「触覚コンタクトレンズを使い、より繊細な触覚を手に入れてみよう」を読みました。

今回は「触感を増幅する」という話題について語られています。

触っている感覚が弱いというか、鈍くなることは日常の中でもあるように思います。一方、「いつも以上に触っている感覚が鋭い」と感じる機会は多くないように思います。

著者は、歪み(見た目)を検査をする時に、軍手をすることで凹凸がわかりやすくなると言います。

ごわごわした軍手をつけてモノに触ると、触感がにぶくなってしまうような気がしませんか。しかし実は、目で見ても認識できないような表面の凹凸は、軍手をしていたほうがわかりやすくなることが知られています。例えば、熟練した職人が手で自動車のボディの歪みの最終検査をするとき、軍手をはめて行うそうです。そのほうが、素手よりも微妙なうねりがよくわかると言いますが、不思議なことではないでしょうか。

たしかに手袋や軍手をつけて触ると、自分の皮膚が直接触れないので感覚が鈍るように思えます。なぜ、触感が増幅されるのでしょうか。

名古屋工業大学の佐野明人博士らの研究により、「軍手で一般的なメリヤス編みという編み方が、触感の増幅に関与している」とが判明したそうです。

その原理を応用した「触覚コンタクトレンズ」という装置が発明されたとのこと。

「触覚コンタクトレンズ」は剣山のような細かな針のあるプラスチックシートでできていて、針の側に指を置きます。シートの下にわずかな起伏差があると、その形状に応じて針がわずかに傾く。この変化が、いわばテコの原理で指に大きな変形をもたらします。結果として、シートの形状が増幅されて指に届けられるのです。面白いことに、触覚コンタクトレンズを使って小さなキズの存在に一旦気づいたあとは、コンタクトレンズなしで同じ場所に触れたときも、そのキズを感じられるようになります。また、ほかの似たようなキズに対する認識率も高くなることが報告されています。

とても不思議なのは「面白いことに、触覚コンタクトレンズを使って小さなキズの存在に一旦気づいたあとは、コンタクトレンズなしで同じ場所に触れたときも、そのキズを感じられるようになります。」という著者のコメントです。

本当は感じとれているのかもしれないけれど、意識されていない感覚。一旦気づいてしまうと、気づいていなかった頃の自分に戻れなくなってしまう。

ほんのわずかなでも「何かいつもと違う」と感じる状況を作り出す。道具によって「自分の身体感覚を拡張する」という視点が興味深く、他の事例も探してみたくなりました。

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