マスクの効用 (内と外、香り、そして新鮮さ)
寒さも少しずつ緩み、春の足音が聞こえ始めた今日この頃。花粉症の気配を感じつつ、マスクを身につけて出かけています。マスクの中は自分の呼気でしっとり潤うので乾燥が避けられる上に、顔のまわりに風が直接あたらないので寒さもいくぶん和らぎます。その意味で、この時期のマスクは重宝している物の一つです。ただ、眼鏡を身につけているとマスクからこぼれる呼気でレンズが曇ってしまうことだけは難点です。
じつは、マスクの効用はもう一つ。
それは身につけている時ではなく、マスクを外した瞬間のこと。「その場所の香り」がとても新鮮に感じられるのです。メガネが曇らないためにやむなく外さざるを得ないので、それは「必然的な偶然」と言えるでしょうか。
マスクの内と外では空気が遮断されるため、香りが感じられません。だからこそ、マスクを外した瞬間に流れ込んでくる空気の色、質感とあたかも初めて出会うかのような新鮮さを取り戻します。
人が香りを感じる感覚、つまり「嗅覚」は疲労しやすく、感じていた香りに慣れてしまいます。この性質は嗅覚の「順応」と呼ばれます。
もう少し広げて考えてみると、マスクを「身につける」ことと「外す」ことは「閉じる」と「開く」に対応します。何かに慣れてしまったな…と感じた時には、そのことにふれないような「閉じた時間」を作ってみるのがよいのではないか、と思うのです。
この閉じた時間というのは、様々な表現ができます。「距離を置いてみる」であったり、「手放してみる」であったり。
磁石のN極とS極を近づけると互いに引き付け合いますが、これは「磁力」が働いているからです。物理の世界において、磁力は距離の2乗に反比例する、つまり距離が離れれば引き合う力が弱まります。
一方、自分が慣れ親しんだ物事と「距離を置いてみる」と、むしろ「惹かれあう(力が強まる)」なんて、物理とは真逆の人間の感性・気持ちに奥深さを感じたのでした。
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