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レジリエンスとモジュール性〜互いに独立しながら協調するということ〜

「復元力」を意味するレジリエンスという概念を構成する要素の一つに、「モジュール性(modularity)」があります。

ソフトウェアやハードウェアの開発、組織や製品の設計など、様々な分野などで応用されており、「大きな全体を独立した部分(モジュール)に分割し、それらの部品を組み合わせることで全体を構築する原理や特性」として定義されています。

モジュールという独立した小さな単位が集まって全体が出来上がっているとうことは、つまりモジュールの間に依存関係がない(あるいは希薄)ということです。

依存関係があれば、もしモジュールAが機能しなくなると、モジュールAに依存しているモジュールBも機能しなくなり、さらにモジュールBに依存しているモジュールCも機能しなくなり…と、連鎖的に全体が機能不全に陥ります。

つまり、独立したモジュールが集まることで個々のモジュールだけでは実現できないことが「全体として実現可能」になる、それも一度に全体が壊れてしまうリスクを抑えながら。

生物の群れも同じかもしれません。群れで生活することで分業(役割分担)を実現することで群れ全体の生活の質を高めつつ、外敵から襲われた場合は集団防衛で生存確率を高める。群れのサイズが大きく、個体が独立しているならば、仮に数個体が死亡したとしても群れ全体が一度に死滅する可能性は抑えられます。

こうした「モジュール性」という性質を自分自身や社会に当てはめてみると何が見えるでしょうか。他者との様々な関係があり、その関係の深さも様々である中で「特定の関係に過度に依存していないだろうか?」という問いが浮かんできます。

この問いは「特定の関係に過度に依存してはいけない」ということを伝えたいわけではありません。とはいえ、依存関係は「依存する・される」という構造があるがありますから、特定の誰かに過剰に負担が集中してしまうかもしれません。

思うのは「弱みを見せる」ことで、依存関係の延長線としての関係性・構造の脆弱性が表面化され、全体がしなやかさを取り戻す契機になるということです。自立は決して「弱みを見せてはいけない」ことを意味するわけではない。

互いに独立しながらも協調する。ここに「しなやかさ」の源泉があるように思います。

一般的に、生態系などの分野でレジリエンスの要素としてよく挙げられるのは、「多様性」「モジュール性」「密接なフィードバック」です。

枝廣淳子『レジリエンスとは何か』

「モジュール性」とは、ふだんは全体とゆるやかにつながっていても、いざというときには自分たちを全体から切り離して、自分たちだけで成り立つようになっているかどうか、ということです。(中略)何らかの非常事態が発生して食料やエネルギーの輸入が途絶えても、うちの地域には地域通貨があるし、暮らしに必要な食料やエネルギーの地域内自給力も高いので、何とか回していける」という地域は、モジュール性が高く、レジリエンスに富んでいると考えられます。

枝廣淳子『レジリエンスとは何か』

植物のあまり知られていないもう一つの特徴は、同じものをいくつもそなえているモジュール構造だ。(中略)一本の樹木の体は、同じユニットのくり返しでできていて、それがさらに全体的な構造をつくりだし、樹木がどのような生理機能をもつかを決めている。これは、動物界とはまったく異なる現象だ。私たちが動物に対して使っている《個体》という言葉の定義さえも、植物の世界ではほとんど意味がない。

ステファノ・マンクーゾ『植物は“未来”を知っている―9つの能力から芽生えるテクノロジー革命』

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