意味とは「個人的な文脈の中で引き出されるもの」
今日も引き続きミハイ=チクセントミハイ(アメリカの心理学者)による『モノの意味 - 大切な物の心理学』の第3章「家の中でもっとも大切にしている物」より「家具」を読みました。では、一部を引用してみたいと思います。
中年女性たちの場合、家具を大切にする理由はこれとは大きく異なっている。次にあげるのは、居間にある革張りのイスを特別なものとしてあげた、ある中年女性の回答である。「その二つのイスは私と夫が買った初めての品なのです。それを見ると、私は家族のこと、子どもが生まれたこと、子どもと一緒にそこに座ったことをすぐに思い出すのです。」
別の回答者は、居間の籐椅子がなぜ特別なのか、次のように語っている。「 それは非常に古いものです。エバンストンに古くから住んでいる黒人家族からプレゼントされた物なのです。彼らは、きっと私がそれを大切にすると思ったのでしょう。私の兄が家まで運んでくれました。ある特別な人たちが長らく持っていた物で、何年もその家に置かれていたそうです。」
ここに、ある一人の男性が書斎の机について語ったものがある。「それは私が作ったのです。本当にシンプルで、元はドア板だったようです。これまで私の作ってきた物の中でも、これが好きな理由は簡素さを達成するために文字通り最大限の努力を払ったからです。私には物をできる限り簡素なデザインで作りたいという情熱があります。妻も私も物好きでして、他の人たちが使わなかったり捨てたりする物を再利用するのが好きなのです。なにしろタダですからね。」
1977年にアメリカのシカゴの都市部に住む82家族に対して行われた「人と物との関係」を実証的に明らかにするインタビューの中で「特別な物」として最も多くの人が挙げたのが「家具」でした。
今回は、具体的なインタビューの内容を引用しましたが、家具という物に対して、じつに様々な意味付けがなされていることがわかります。
思い出や経験、目的や理想。
前回取り上げた10代の回答では、「実用性」や「楽しさや心地よさ」という意味付けがなされていました。
あらためて「意味とは何だろう?」という問いに立ち返ると、それは人が、「個人的な文脈の中で引き出されるもの」と言えるように思いました。
「心地よさ」は物に「身体で接触する」という営みを通して引き出される。
「思い出」や「経験」は、物を通して過去とつながる、つまり「思い出す」という営みを通して引き出される。
「目的」や「理想」は、最初から存在するのではなくて、物に対して能動的に関わる、たとえば「製作」や「修繕」という営みを通して、徐々に形作られてゆく。
「意味」という言葉の意味は何だろう、と考えてしまうことがあって、簡単に答えが出るような問いではないのですが、「ある存在」の意味を直接考えようとするのではなくて、まずは「ある存在」との「関わり方」をゆっくり、ていねいに思い浮かべることが「意味」に近づく初めの一歩なのではないか。そんなことを思いました。
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