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空気をまとう心地よさ

今日は『生活工芸の時代』より「リネンのシーツ」という節を読みました。これからの暑くなりますし、リネンの季節ですね。一部を引用してみたいと思います。

あたりは暗くなり、そして僕たちは夕飯をご馳走していただいたのですが、その時、湯気の上がるおいしそうな強飯が、茶褐色の布に包まれて食卓にでてきたのでした。その布は白く輝くからむしの印象とは違い、生成りの糸をザックリと編んだような、たいへん野趣のあるものでした。そして湯気に濡れたその布が、惚れ惚れするほどきれいだったのです。
生地は大麻。からむし同様に、いや日常使いとしてはそれ以上に、昭和村で昔から手がけてこられたのが大麻でした。そこには生活の布としてのたくましさがありました。そして、とてもおおらかでもあった。「こんな布の使い方があるんだ」。茶碗に御強をよそう様子を見ながら、なんだか僕は嬉しくなりました。
「独りの力では始末の」つけられないことが僕たちにはたくさんあります。でも、美しい布にはひとの心を動かす力があります。そしてひとには、発見する力がある。きっとそのふたつの力が、何かを生み出していくだろう。そう思いました。

「美しい布にはひとの心を動かす力があります」

この言葉に思わず「そうなんですよね...」と、うなずいてしまいました。

布の生地は、どれも個性的な表情があるように思います。素材、糸の番手、肌理。シャツやスーツを仕立てるために足を運び色々の種類の布に囲まれると、どこか穏やかな気持ちになります。

リネンの美しさは、柳宗悦さんが語る「用の美」にあるような気がします。

吸湿性(汗や湿気をよく吸いとる)、保温性(空気をふんわり包んで温かさを逃がさない)、放熱性(風とおりがよく感触がいつでもサラサラ)。

パリッとした風合いもよいのですが、洗いをかけて繊維が柔らかくなると、肌のなじみがよくなって、まるで「空気をまとっている」ような心地よさがあります。時間と共に風合いや質感が変わってゆく。

時間が経っても変わらないもの。時間と共に変化してゆくもの。

こんな布の使い方があるんだ

著者の三谷さんが、宿泊先でご飯が布(麻)に包まれて食卓に出てきたときに思わずこぼした一言。

布という「モノ」自体は変わらないのかもしれないけれど、「コト」つまり「モノとの関係性」は変えてゆけるのだなと思いました。

モノとの関係性を変えるためには「発見する力」が必要なのでしょう。モノ自身が持つ個性、その個性が輝く場所。両方を見つけて、結びつけていく。

そのためには、やはり「直接的な体験」が大事なように思います。リネンの写真をいくら眺めても、「空気をまとう心地よさ」は分かりませんから。


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