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物と関わる時間と意味

今日も引き続きミハイ=チクセントミハイ(アメリカの心理学者)による『モノの意味 - 大切な物の心理学』の第3章「家の中でもっとも大切にしている物」より「家具」を読みました。では、一部を引用してみたいと思います。

(このチェストは)七十年ほど前、私の父と母が結婚したときに買ったものです。しかも二人が買ったのは新品ではなく、文字どおりの骨董品です。母が色を塗り替えて寝室で使っていました。私がもらい受けてから、夫が色を落として自然の木の状態に戻したのですが、非常にきれいです。代りに何かくれると言われても、私は手放しません。子どもたちもほしがると思います。義理の娘も古いものがとても好きなのです。
このケースで興味深いのは、チェストに施された加工 - 母が色を塗り替え、夫が色を落としたという - について話すことを回答者が価値あることだと思っていることである。これらの行為は、物の外観を変えたものの、物はその変らぬアイデンティティを保持している。
なぜ家具が特別と考えられるかについて、全部で六百三十八の意味が挙げられた。これらのうち、もっとも多くの人があげたのが、「思い出」(一五パーセント)、「様式」などの外見(一二パーセント)、「経験」(一一パーセント)である。実利的な物の「有用性」に焦点を当てたものは五パーセントにすぎなかった。自己との関係の重要性を強調したものは全体の一七パーセントであり、回答者の肉親との関係を強調したものが一五パーセントあった。それ以外の血縁や家族以外との絆を強調した回答は。それぞれ三パーセントにとどまった。

「なぜ家具が特別と考えられるかについて、全部で六百三十八の意味が挙げられた。」

1977年、シカゴ都市部に住む82家族に対して行われた「人と物との関係性」に関するインタビューの中で、「家具」は最も多くの人が特別な物に挙げた物です。そして、家具にまつわる「638」の意味が見出されたというのは、私の想像をはるかに上回る数字で、とても驚きました。

今回は、家具の中でも「チェスト」に関するコメントを引用しましたが、私も実家に幼い頃から使っているチェストがあるので、なんだか懐かしく思いながらコメントを読みました。

人それぞれの文脈の上に、物との関わりの上に「固有の意味」が存在する。やはり「意味の世界は多様」なのだな、と感じさせられます。

家具は使っているうちに壊れたり痛んだりして「修繕」することもあれば、気分を変えるために「装飾」することもできます。そうした関わりの積み重ねが一つの足跡となって、記憶を呼び起こす触媒として働きかけてくれる。そんな気がします。

「物の外観を変えたものの、物はその変らぬアイデンティティを保持している」という著者の言葉をあらためて引くと、物に対する意味は「外観」が変わっても保持されるというのは興味深いです。

「外見が変われば意味も変わる」ということもあると思いますが、その意味というのは「物との関わり」の中で積み上げられたというよりも、物の性質から短時間で引き出されるものなのでしょう。

「時間をかけて」物と関わる中で、自己を投影する中で蓄積される意味。「その時々で」物と関わる中で、物から見い出す意味。

その物と「どのぐらいの時間をかけて」関わったのかという問いは、意味を探る上で重要だと感じました。

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