世界各地にはその土地に根付いた音楽が存在しています。風習や文化と一つになって世代を超えて受け継がれた音楽には固有の香り、息づかいがあり、たとえその土地で生まれ育ったことがなくとも、その人の心を揺さぶる力があるように思います。
その中で「ケルト音楽」は私が心惹かれる音楽の一つです。時に風がそよぐように爽やかで。時に穏やかで牧歌的で。時に躍動的で生命的で。
あとで言葉を引くように、ケルトの伝統では「生と死、あの世とこの世、光と闇を二項対立ではなく、生命のサーキュレーション(循環)として捉える」そうです。
私が初めてケルト音楽にふれたのは、リバーダンス(Riverdance)というアイリッシュ・ダンスやアイルランド音楽を中心とした舞台作品でした。アイルランドに伝わる神話や伝承、ジャガイモ飢饉等によりアメリカへの移住を余儀なくされたアイリッシュ・アメリカンの歴史、多様な民族との交流をモチーフとした作品です。
音がたえまなく重なり合い、色彩を変えながらフレーズが途切れずに続いてゆく。まさにケルトの「循環」という精神が音楽に根付いているのだと認識を新たにしました。「循環するとはどういうことか?」という問いを音楽を通して体感する。
私たちは日常生活の中で「二項対立」的に物事を考えることにいささか慣れ過ぎてしまっているのかもしれません。世界の文化や音楽だけでなく、対立構造の枠に気付いて抜け出すきっかけは他にもあるように思います。
「対立から循環へ」ということ。