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触感は感情・判断を左右する

今日は『触楽入門 -はじめて世界に触れるときのように-』(著:テクタイル)から「あたたかい手と冷たい手、人に信頼してもらうにはどちらがいい?」を読みました。

今回読んだ範囲はアメリカの科学誌サイエンスに掲載された身体性認知科学の研究成果が紹介されており、とても興味深い内容でした。具体的には「私たちの思考は触感によって左右されている」というものです。

私たちの思考が触感に左右されているとはどのようなことなのでしょうか。著者はサイエンスに掲載された研究で行われた実験内容、結果について次のように紹介しています。

 実験では、被験者に知らない人のポートレートを見せ、その人の人格を評価してもらいました。その際、実験に先立って被験者を2つのグループに分け、一方にはホットコーヒーを、もう一方にはアイスコーヒーを渡しておきました。さて、どうなったと思いますか。事前にホットコーヒーを渡された人は、アイスコーヒーを渡された人よりも、写真に写った人を「あたたかい人だ」と判断する確率が高まりました。手のひらで触れたものの温度が、写真に写った人物の人格判断に影響を与えたのです。

温かいものに触れると「あたたかい人」だと判断する確率が高まった。本当なのだろうか…と疑問に思ってしまいますが、どのような原理なのでしょうか。著者は次のような仮説を立てています。

 なぜ、触感が判断に影響を与えるのでしょうか。一つの仮説として、例えば「冷たさ」の場合、冷たい刺激を受けると、価値判断を司る脳の扁桃体という場所が応答します。「冷たさ」は生存を脅かすことつながるので、脳はこれを危険信号だと判断し、冷たい刺激を与えるものを避けようとする行動が生じます。それが、「相手を信頼しない」という結果につながるのではないかと考えられます。

冷たさは生存を脅かすことにつながり、脳が危険信号だと判断する。触覚と温度の関係性。もう少し身近な出来事で考えてみたいと思います。

身近な状況で外の寒さで身体が冷え切ってしまった状況から、あたたかい部屋に入ると何だかホッとした気持ちになります。湯船につかったり、あたたかいシャワーを浴びたりして身体を温めると、何だか生き返ったような気持ちになります。

そう考えると、触感は感じとっているけれど意識していない感情、本能に訴えかける力があるのかもしれません。

 コーヒーの「あたたかさ」と、人格を評価するときの「あたたかさ」。同じ言葉が使われていますが、後者は抽象的な概念に対して使われている比喩表現(メタファー)です。ソファの「やわらかさ」と人の態度の「やわらかさ」、あるいはクリップボードの「重さ」とその人物の「重要さ」(「重い」という漢字が使われている) - このように、人間同士の関係性を示す私たちの言葉遣いの中には、触感が入り込んでいます。

何かを評価するときに触覚にまつわる言葉を自然と使っている。触感と言葉もつながっていて、言葉を通しても世界に触れている。色々なふれ方があるのだな、とあらためて感じました。

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