【アルパカハウスの謎】

今日の内容は、ひょっとしたら今のあなたのことかもしれません。
「会社を辞めて妻の仕事をサポートしたいんです。起業の成功法について教えてください!」

そう言って僕の起業塾に申し込んできたのはBさん。
当時35歳のサラリーマンでした。
彼の奥様は、ヒーリングメソッドを駆使してお客さんの疲れを癒すセラピストで、その時点ですでに結構な売れっ子。

創業3年でかなりのお客さんがついており、忙しくて事務方の仕事が手につかないありさま。
そこでかねてから奥さんの仕事をサポートしたいと考えていたBさんが、いよいよ会社を辞め、起業してそのサポート一本に集中しようと言うのです。

Bさんとの面談初日。
現状をヒアリングした上で、先ずは奥さんのサロンの屋号とかキャッチフレーズを決めないといけないね!と言う僕に、Bさんは言います。

「屋号は決まっているんで、そこは必要ありません。中山先生には、チラシのコピーとか広告の作り方、集客法について重点的に教わりたいんです。」と彼。

そうなんだね、屋号は何て言うの?と尋ねた僕に、彼が口にしたのは驚愕の答えでした。
「アルパカハウス」。
「え?アルパカ?それ何?動物だっけ?」
当時の僕はアルパカをよく知りませんでした。

もちろん言葉を聞いたことはありましたが、それがどんなビジュアルかが結びついていない状態。
「アルパカってどんな奴?」と尋ねた僕に、彼はスマートフォンを操作してアルパカの画像を見せてくれます。
そこにはなんだかモフモフの山羊みたいなヤツが沢山映っていて、僕を見ています。

「そもそもどうしてサロンの名前がアルパカなの?」
訊いた僕にBさんは、ニコニコと笑いながら、
「アルパカは僕と奥さんにとって、癒しの象徴なんですよ。見ているだけで癒されませんか?」と。

「いやいや、あなた達はそうかもしれないけど、みんなこれで癒されるわけ?」と僕。
そもそも、疲れて癒されたいと思う人が、施術を受けたいと思った時に、”アルパカ”って検索しますか?と言うと、「しますよ~!するでしょ!」と彼。

脳の中でポキリと言う音が聴こえ、この辺りで僕の心は65%ばかり折れていました。

彼は胸を張って言い切ります。
「みんなアルパカで癒されるんです!」

そうかな~、僕はそうじゃないけどな~とブツブツ言う僕に、それは中山先生が特殊なだけですよ。みんな癒されます!と言って譲りません。

あまりにの頑(かたく)なさに、僕は気力を無くし、ライティングの基本を軽くレクチャーしてその日はお終いにしました。

「屋号は変えないとダメだと思うよ・・・。」

去り際に言った僕の言葉は彼にはまるで届いていないようでした。
ライティングについてメールでやりとりをしながら、3か月が経ちました。
東京は恵比寿でライティングセミナーをやることになり準備をしているとBさんから申し込みがありました。

そして当日。
セミナーが終わり、懇親会に移動するとBさんが早速駆け寄ってきます。
僕は訊きました。
「どう、サロンの集客は?」
「妻に固定客がついていたので、その人たちは来てくれるんですけど、新規は増えないですね~」と彼。

「ところでサロン名はアルパカハウスから変えてないの?」と訊くと、「もちろんです。これは変えられません。」と彼。

”アルパカハウス”と太いゴチックで書かれた名刺を出してきます。
あ、変えてないんだ~と膝が折れそうになります。
サロンの空間にはアルパカのぬいぐるみや写真が沢山飾ってあり、彼ら夫婦は毎日それを見て癒されていると言うのです。

「やっぱり、名前は変えるべきと思うけどな~」と言う僕の声は彼にはまるで届きません。
だって、「アルパカハウス」では、それが何だか分からないし、どんな考え方のサロンなのかも分からない。
そもそも、アルパカハウスと言う看板が出ていたとして、ヒーリングサロンだと伝わることは無いし、ペットショップとか、おもちゃ屋さんとしか見えないんじゃないの?と言ってもBさんの機嫌は悪くなるだけ。
異様なまでの思い込みです。

ま、頑張ってよ!と言い、その日はそれっきりでした。
それから数ヶ月してまたライティングセミナーをやると、そこにもBさんの姿がありました。
心なしか元気がなさそうに感じましたが、僕から声をかけることはしませんでした。
その日、懇親会の場にも彼の姿はありませんでした。
家に戻り、ネットで探してみると、アルパカハウスと言う名前は相変わらず変わっていませんでした。

それから丁度1年後。
知り合いを通じて、彼がサロンを畳んだことを知りました。
奥さんは他のサロンに就職し、サラリーマンに戻ったそうです。
夫婦は離婚し、Bさんは岐阜の実家に帰ったそうです。

さて、何故、アルパカハウスは失敗したのでしょうか?
やっぱり僕には、サロン名がそぐわなかったのだとしか思えないのです。
もちろん名前=屋号だけの問題ではありません。
自分のサロンを紹介する紹介文とか、チラシのコピーも含め、すべてが「伝わらないモノ」になっていたからです。

奥さんの腕は確か。
常連はついている。

でもそれだけでは決定的に足りないモノがある。
そう・・・新規客です。

どんなに優良な企業でも必ずお客さんは減ります。
間違いなく減るんです。
だから何とかしてそこを増やさないといけない。
穴埋めが必要です。
が、アルパカハウスはそれができなかった。
自分達の思い込みを貫き、ビジネスを壊しました。

新規客を集めると言うのは大変です。
手間もコストも時間もかかる。
ディズニーランドが超優良企業なのは、リピート率が異常に高く、集客にかかるコストが少ないからです。
でも多くの起業は、そこに苦労しているし、年間のマーケティング費用の多くをそこに割いています。
いえ、割かざるを得ないんです。
それが事実です。

アルパカハウスは悲しい結末を迎えてしまいましたが、あなたはどうですか?
あなたのビジネスは、「あなたが来て欲しいお客さん」を「無駄なく」呼べているでしょうか?
あなたが伝えたい思い=キャッチフレーズや屋号。
それに付随する「説明力」。
これがズレていたり、弱かったりすれば、知らないうちに大きなロスが生じている可能性があるんです。
つまりはマッチングが出来ていないんです。

仮にあなたの年商が2000万円という立派な数字だとしても、このマッチングがうまく行けば実は4000万円の可能性をもっていると言うことなんです。
この差額を取りこぼしてるんですよ。
所詮、言葉の問題。
売れる売れないは偶然でしょ?と思うかもしれません。
でもね、僕はこれまで、このマッチングが出来ないばかりに不幸を背負いこんだ、数えきれないくらいの実例を、悲しいかな沢山見て来ました。

逆に、たった1行を変えたり加えたりしただけで、一気にブレークしたケースも沢山見て来ました。
さて、あなたはどちらをお望みでしょうか?
アルパカハウスのように、悲しい道をたどるか?
それとも無理なく、キチンとした売り上げを手にするか?
決めるのはあなたです。

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