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子供のお弁当に対する意識は時代とともに変わったのか

 遠足や運動会、ちょっとしたイベントなどで、家からお弁当を持っていく機会というのは今も昔も変わらずあるものです。

 我が家には中学生の娘がいるのですが、部活のために週末といえども終日家を空けることが多く、その日は必ずお弁当持参で学校に行きます。

 部活は吹奏楽部で、パートごとに集まってお弁当を食べることになっているらしく、仕事がある日でも早く起きてお弁当を作って持たせます。

 小学校低学年くらいまではキャラ弁のリクエストがあったりしたので、数日前から何を作るかプランを練り、前日夜には仕込みをある程度終わらせておくなどの準備が必要でした。それでも、お弁当の蓋を開けた時の娘の喜ぶ顔を想像しては、あれこれ考えてこだわりのお弁当を作ったものでした。

 中学生になった今では、さすがにもうキャラ弁などは作らず、娘からのお弁当に対するリクエストもなくなったため、以前ほど時間はかからなくなりましたが、それでも見た目を考えて、色合いを重視した品数の多いお弁当にすることを心がけて作っています。

 そうなんです。お弁当というのは、栄養バランスよりなにより、見た目が大事だと、私は信じているのです。 

 その理由は、私が子供の頃にさかのぼります。

 実家は自営業で、皮革製の時計バンドを手作業で作る仕事をしていました。それこそ朝早くから夜遅くまで、両親は自宅の一室で一日中仕事をしていたのですが、私を筆頭に3人の子供がいたため、経済的にはなかなかハードな生活でした。一日のほとんどの時間を仕事に充てているため、一人ひとりの子供のために時間とコストをかけてお弁当を作る余裕などなかったんですね。

 記憶の中にある母の手製のお弁当は、だいたい茶色の占める割合が多く、前日の晩御飯の残りものが使われることもしばしばでした。

 子供心に、茶色ばかりのお弁当を友達の前で開けるのが、とても恥ずかしかったんですよね。カラフルで可愛らしく、品数の多いお弁当を持ってくる友達の前では特に、あまり堂々と蓋を開けたくなかったのを覚えています。

 そんな自分の記憶から、娘にはお弁当で恥ずかしい思いをさせたくないという思いがあって(シングル家庭なのでなおさらちゃんとしたい)、お弁当は色合いを重視して、なるべくたくさんのおかずを詰め込んで、見た目も楽しくなるように心がけてきました。

 ところが。

 先日お弁当について話しているときに、娘の発した言葉に私は少なからずショックを受けてしまいました。

 「お弁当の中身なんてあんまり気にしてない」

 さらっと、本当に大したことじゃないというライトな感じで、娘はそう言ったのです。

 部活のメンバーの中には、コンビニで買ったものをそのまま持ってくる子や、おかずはなくおにぎりだけ持参する子、インスタントのスープとパンで済ませる子なんかもいて、昼ご飯などは午後からの部活を元気で乗り切るための、単なる栄養補給に過ぎないといった感覚のようなのです。

 みんなでわいわい楽しくお弁当を食べるというシーンをイメージしていた私は、そのギャップに驚くとともに、妙に納得してしまいました。

 考えてみれば、私が子供のころと違って、今は24時間お店が開いていて、いつでも食糧を調達することができる時代です。

 昔は家で作ったお弁当を持ってくるしか選択肢がなかったので、みんながだいたい同じような形態の昼ごはんだった訳です。だから比較対象となるものも、いわゆるお弁当箱に入った親御さんお手製の「お弁当」だけだったんですよね。だから友達のお弁当と比較して、私は自分のお弁当が劣っているように感じた。だけど今の時代では、コンビニ弁当やおにぎり、菓子パンなどが学校における子供の昼ごはんになりうる時代であって、「お弁当」の形態そのものだけでなく、その意味合いも昔とは変わったのでしょう。比較する範囲が広がったために、自分のお弁当を友達のそれと比べる意味すらなくなったということなのかも知れません。

 時間をかけて作ったお弁当の代わりに、お金を払って手軽に準備した食料を、時間をかけずに食べて栄養を摂取するというのが今の時代。

 昔と違って働く母親も増えた現代の世の中において、食料が簡単に調達できるのは便利だし、それを子供の昼ごはんとして活用するのも理にかなっていると言えます。

 でも、それではなんだか淋しいと、私は思ってしまうのです。

 だから、娘が中身なんてどうでもいいと思っていても、仕事がある日はいつもより早起きして作らなければならなかったとしても、お弁当はバランスよりも色合い重視のポリシーを貫き通そうかなと。

 手作りじゃなければ愛情ないだのかんだの、そんな強迫観念があるわけではありません。単なるこだわりです。

 古い自分の価値観を持ち続けるのはおかしいかも知れないけど、それでもやっぱりお弁当について感じていた子供の頃の自分の思いというのは、簡単には覆すことができないということなのでしょうか。

 娘が高校生になって、お弁当より購買部で買ったパンが食べたいとか言い出すまでは、見た目命のお弁当をしつこく作り続けようと思います。

 

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