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人を呪わば、穴ふたつ。。。

職場の同僚や上司に外国人がいる。なので、自分がクシャミすると「ブレッシュー」(Bless you !)と声かけしてくれる。。。直訳すると、祝福があなたにありますように。

言われると、悪い気は、しないよねー。祝福がありますように、だからね。でも、コロナ禍で、気軽にクシャミできない雰囲気となり、同僚の何人かは母国からの帰還命令で去り、自分もずっと在宅勤務になったので、あの「ブレッシュー」は、もう4か月以上、耳にしてない。。。なつかしい。。。

クシャミって、もともと「糞め!」が語源で、クシャミが出るってことは、鼻から霊魂が抜け出ようとしている、それは、誰かが自分に呪詛をかけて、死ぬように願っているからに違いないので、呪っているそいつは、いますぐ地獄に堕ちろ! という、ショットガンみたいな呪いの言葉から、来てるらしい。。。

クシャミと似たのに、チクショー! が、ある。くやしいことがあったとき、口をついて出てしまう言葉だけど、これは仏教用語の「畜生道」から来ていて、おまえなんか、いますぐ畜生道に堕ちろ! という、ハンドミサイルみたいな呪いの言葉だ。。。

仏教の世界観では、いまの人生で悪い行いをすると、死んだあと、畜生道・餓鬼道・地獄道のいずれかに振り分けられる、と考えられている。じゃあ、何が悪い行いかというと、貪(とん。必要以上に欲しがる) 瞋(しん。怒りと憎しみ) 癡(ち。無知と混乱)の三つあるんだ。トンシンチ。。。恐るべし。。。てか、この基準って、キリスト教より厳格じゃね?

クシャミとか、チクショーとか、何も考えずに使って生活してるけど、もとは宗教的世界観から由来している、他者を攻撃するための、呪いの言葉なんだ。。。ほんと、気を付けないと、と思うんだけど、クリスチャンになって40年近く経ついまも、ときどき口から出てしまう。。。

今日の聖書の言葉。

のろう者を祝福し、はずかしめる者のために祈れ。
ルカによる福音書 6:28 口語訳

30年ぐらい前かなあ。。。日曜学校にアメリカ系日本人の5歳ぐらいの子が来ていて、カタコトしか日本語がわからないから、聖書のおはなしを英語に通訳してあげた。。。で、ジーザス(イエスさま)はね、という展開になったら、その子が突然「ジーザスって、言っちゃだめ! ジーザスは悪い言葉だから、絶対言っちゃだめって、ママがいってた!」と怒り出したんだ。。。

こっちは、キョトンってなったけど、すぐ、事態が飲み込めた。

日本の呪詛の言葉は、仏教由来が多いけど、アメリカの呪詛の言葉は、キリスト教由来なんだ。それを「スウェア」(Swear)というんだけど、本来の、神にかけて誓う、という意味が転じて、神かけて相手を呪う、という含みを持つようになり、いまや、呪いのほうメインになって、スウェア は カース(Curse 呪い)や ブラスフェミー(Blasphemy 冒涜)と同義語みたくなってしまっているんだ。

きっとその子のお母さんは、まじめな人なんだろう。。。ジーザスの名前を軽々しく口に出しちゃだめ、って厳しく教えてたんだろうなあ。まあ、その指導は、間違ってはいないけど、でも「ジーザス」そのひとが悪者というのは、誤解だよね。。。悲しい。。。

アメリカ人だって、他人を呪うのは悪いこと、と理解してるけど、やっぱり、口をついてスウェアが出ちゃう。。。うちらのチクショー! と似ているよね。

びっくりしたり、カッとしたりする出来事に直面して、脳のニューロンが発火し、ナノ秒で言葉が発動されるわけだから、ヤバイって思ったときは、もう言葉が半分でてる状態。。。

そこで、半分でたゼロコンマ何秒からの、パっと後半部分を切りかえるという、巧みなわざが生まれてきたんだ。。。

たとえば。。。

● ジーザス! ⇒  ジーズ(Geez)に言いかえ。

● オー・マイ・ゴッド! ⇒  オー・マイ・グッドネス(Goodness)あるいは、ゴッシュ(Gosh)に。

● ジーザス・クライスト(キリスト) ⇒  チーズ・アンド・クラッカーに。

● ホーリー・マザー(聖母)⇒  ホーリー・マッカレル(Mackerel サバ)に。

。。。という具合。なんか笑ってしまう。。。

怖いと思うのは、脳神経学者によると、大脳の言語野が破壊された状態でも、スウェア つまり 呪いの言葉を、ひんぱんに言える治験者がいた、ということなんだ * 。

これって、つまり、人を呪う気持ちや能力って、人間の精神のすっごいコアにある、ってことじゃない? 

だからねー。。。やっぱり、人を呪っちゃ、だめなんだと思う。人間のコア、魂に、ふかく入ってきちゃうものだから。

なので、呪いの言葉を脱ぎ捨てて、人を祝福する言葉だけを言うという、まったく新しい習慣を意識して身に着けないと、あとあとヤバイと思うんだ。

ヘーックション。。。祝福があなたにありますように!

* アントニオ・ダマシオ『デカルトの誤り:情動、理性、人間の脳』(Antonio Damasio, Descartes' Error: Emotion, Reason, and the Human Brain)パトナム出版社、1994年刊。

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