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恩師からもらった言葉

9月に入り,学会(研究集会)のシーズンになりました.今年は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点で学会はオンラインでの開催が多く,研究成果発表の場も"新しい様式"が色々と始まっています.

私の研究分野で関係が深いつある地球科学系の学会で,京都大学大学院時代の恩師が学会賞(その学会では最高の名誉)を受賞されました.恩師にとって初めての博士号取得者であった私としては,恩師の学会賞受賞にとても感慨深いものがあります.

学会賞表彰は,9⽉13⽇(⽇)14:00から1時間程度,以下のYouTubeライブで配信されます.

京都での大学院時代にその恩師から言われた「5つの教え」が,今でも研究進めていく上で大きな財産となっています.大学院博士課程を修了して15年あまり,備忘録代わりにここで「5つの教え」を紹介したいと思います.

1.科学論文は,たんに努力賞では受理されない(研究で汗をかいたことが論文で評価されるわけではない).

どんなに苦労してデータ出しても,どんなに時間をかけてデータ出したとしても,それによって論文掲載されやすくなったりすることはありません.科学論文では,あくまでも明らかにした成果そのものに対して評価を受けるもの.心情的には,「頑張ってデータ出したよね」,「このデータ出すのにものすごく時間かかったよね」,という気持ちは誰でも湧くけれど,じゃあ論文掲載の敷居が低くなることは絶対にないです.例えば,野球の試合で,「このバッターはいつも素振りや練習を頑張っていたから,今日はストライクゾーン広くしてあげよう」とはならないのと同じです.

2.事実と解釈(考え)は分けてきちんと説明しなさい.

これは研究生活だけでなく,普段の生活でも気をつけなければならないこと.昨今の新型コロナでも,地震などの大災害の時でも,デマ含めて色々と情報が飛び回ります.その時,情報は「事実」と「解釈」は区別することが大事です.ニュース報道で,「事実」のように聞こえる出来事でも,よく聞き直してみると「ニュースキャスターやコメンテーターの解釈」だった,ということがよくあります.

3.あなた自身が自分の出したデータの重要性や面白さに気づきなさい.

恩師が先に答えを知っているけど教えないよって意地悪のようにも聞こえますが,これは,「あなたは非常に重要な面白い研究や発見をしているから自信を持ちなさい」というアドバイスでもあります.たまたま出した結果がとても重要な発見だったりすることもありますが,それも含めて研究する自分の良さ・特徴・感性を知っていきたいところです.

4.論文執筆でイントロダクション(はじめに,導入部分)を書く際は,イントロダクションはその研究を始めた当初の動機とは必ずしも一致しない.

研究のキッカケは指導教官がテーマを与えてくれたから...ということがあったとしても,論文に「この研究は指導教官が与えてくれて始まった...」なんて書くわけがありません.面白い,新しい,結果が出てきて,それらがこれまでにない新しいアイデアとなった時,その結果やアイデアを明らかにすることがなぜ重要なのかを,科学論文ではイントロダクションで書きます.「それって後付けなんじゃないの?」と思う人もいるかもしれませんが,科学論文ではテーマが決まって....色々と苦労して....やっと結果を出しました!という経緯は一切書きません.結果やアイデア,そしてその重要さを淡々と正確に伝えることが科学論文の役目になります.科学技術論文の書き方については以下のサイトなどが参考になります:

5.研究を進める上で,関連する先行研究をきちんとレビューしなさい(先行研究に敬意を払うこと).

若い研究者,特に,学生さんに,先行研究をきちんとレビューしない人がいます.自戒を込めての部分も大きいのですが,自分自身が取り組んでいる研究分野での謎(課題),仮説,データなどは,これまでの多くの研究者が研究を重ねて発表してきた蓄積によるもの.あたかも自分で全部思いついて研究を取り組みました!というのは周りが全く見えていないだけでなく,先人に対してとても失礼なことになります.これまでの研究に敬意を示しながら,研究を前に進みたいものです.

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