見出し画像

コーマック・マッカーシー

6月13日、アメリカの作家コーマック・マッカーシーがお亡くなりにられたそうだ。

1933年7月生まれなので、享年89歳。
来月には90歳だったのか。

おそらく日本で一般的にも有名になったのは、2007年公開の映画『ノーカントリー』の原作者としてではないだろうか。
ハビエル・バルデムが演じた薄気味悪い殺人鬼が印象的な「メキシコ国境ノワール」とでもいうような"真っ黒な映画"でした。
それでも、作品そのものはカルト的な人気のコーエン兄弟が監督したということや、
前年の2006年からBOSS缶コーヒーのCMでお茶の間(古い!)にも顔が売れだしたトミー・リー・ジョーンズが出演しているということで、
映画館に足を運んで後悔した人も多かったんじゃないだろうか(笑)。

原作の『血と暴力の国』(原題:No Country for Old Men)も、映画に劣らずに凄みのある独特な作品で、
僕も映画の原作ということでコーマック・マッカーシー作品を読んだのがこれがはじめてだった。

それにしても、この原作が出版されたのが2005年なので、70歳を過ぎてあの作品を書いたことになるからそのパワーは流石アメリカ西部の男という印象だ。
(生まれたのはロングアイランド州らしいので、西部の男の血はおそらく入っていないのだろうが)

しかも、翌年には『ザ・ロード』(原題:The Road)という作品も出版されていて、こちらは近未来ディストピア設定の小説なのだから驚く。
おそらく以前にはSF設定のような小説は書いたことがないんじゃないだろうか。
老いてもなお衰えない創作の力よ。

僕はこの2冊しか読んだことはなかったのだが、もちろんそれ以前にも何作も執筆されていて、『すべての美しい馬』『越境』『平原の町』というメキそこ国境三部作といわれている作品が有名。
さらに三部作の前に出ている『ブラッド・メリディアン』や先の『血と暴力の国』もいずれもがメキシコ国境が舞台で、何かこの土地に彼が書き続けてきた「アメリカ」を象徴する何かがあったのだろうか。

コーマック・マッカーシーの作品を独特なものとして特徴づけているのは、書いている題材よりも何よりその文体である。
数ページ読んだだけでその独特さはすぐにわかる。

とにかく読みにくい。
地の文に読点はほぼ無く、改行もほとんどされずダラダラと続く。
そして、会話はカギ括弧「」で囲まれず地の文と同じように書かれる(流石に改行はされる)。
なので、まず体裁として読みにくいったらありゃしない。
さらに文体も個性あり過ぎ。
感情表現はなく、風景描写、動作、カッコなしの会話だけで物語が進んでいく。
とっつき悪くて最初はなかなか入りにくく感じるかもしれないが、一度作品世界に入ってしまえば、読み進めることにも慣れてくる。
とても抑制された文体なのだが、書かれている内容は結構どぎつかったりするし。

そういえば映画といえば、2013年のリドリー・スコット監督の『悪の法則』という作品も脚本はコーマック・マッカーシーが書いている。
この作品も『ノーカントリー』同様にメキシコ国境を舞台にした犯罪映画で、かなりキツい内容だ。
映画館で観に行ったが、しばらくはコーマック・マッカーシー脚本だとは知らなかったが、後で知ったら「なるほど」と頷くような内容だったことを覚えている。
出演者もとにかく豪華(マイケル・ファスベンダー、ペネロペ・クルス、キャメロン・ディアス、ハビエル・バルデム、ブラッド・ピット)なので、
是非観て欲しい。

普通の日本人がほとんど知らないアメリカ、
ハリウッド映画や観光・ビジネスでの都市部への訪問、
そうした我々が知っている表面的なアメリカとは全く違ういわばダークサイドのアメリカとその歴史、そしてそこに暮らしている人々を書き続けてきた作家なのかもしれない。

そうした「もう1つのアメリカ」を知るためにも、彼の残した作品を読んでみたい。
国境三部作をはじめ、ハヤカワepi文庫として再発されているし、Kindleにもなっているので、アクセスはしやすいと思う。

<了>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?