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山下達郎『FOR YOU』リリースの1982年夏、もう1枚の名作〜門あさ美『HOT LIPS』

先日の山下達郎さん『FOR YOU』リマスター盤発売のことを書いていて、思い出したことについて書きたい。

『FOR YOU』オリジナル盤リリースは1982年1月。
あと2ヶ月で卒業を控えていた高校3年生。
一応受験をするつもりだったが、共通1次試験の結果もズタボロで浪人生活はほぼ決まっていたようなものなので、ある意味お気楽だった。
そして4月。高校は無事に卒業することが出来たが、浪人も決定して予備校に行くことになったが、何故か想い出の中ではキラキラしていた時代として記憶されている。

自宅近所に新しく喫茶店が出来て、ママさん(マスターの奥さん)が美人で素敵なお姉さんだったこと、そしてアルバイトに来ていた僕らと同年代の姪っ子さんが可愛かったので、その店が悪友たちとの集合場所のようになっていた。

その喫茶店にたむろする悪友の1人に、当時何故だか仲良くしていたO君というバリバリのサーファーがいた。
O君の顔は年中真っ黒に日焼けして、髪も潮焼けで茶髪。
着ている服はいつもTシャツ、短パン、サンダルで、冬場は短パンの代わりにGパン、Tシャツの上にフードパーカーを着込むくらいで、何処から見てもサーファーだった。
当時、大阪では本当にサーファーは多くて街に出て石を投げればサーファーに当たる、そんな感じの時代だった。
サーファーの全員が海に行く訳ではなく、ファッションだけの陸(オカ)サーファーも一定数いた、いやその方が多かったかもしれない。
自宅で地元の商店街で婦人服の洋装店を営む次男坊のO君は小学校、中学校は同じだったが特に一緒に遊んでいたこともなく高校も別だった。
かたや僕はサーファーでもなんでもなく、いつもギターを背負って歩いていたバンド小僧だったので、どうしてO君と仲良く遊ぶことになったのか記憶にない。
おそらく間にもう1人、2人いたんだろうと思う。

そのO君は海に行くには車が必須だということで、18才になるといち早く自動車免許をとって、自宅の赤いファミリアに乗っていた。
サーファーといえばキャリアを搭載した赤いファミリアだった。
そして、よくO君の運転するファミリアに乗って友人3-4人で高速に乗って神戸方面へ行った。

そんな時にはカーステ(カーステレオの略)で好きな音楽を爆音でかける。当時はまだCDなんかない時代なので、カーステはFMラジオとカセットテープだった。
カセットテープは、自分の好きな曲ばかりをレコードやラジオから録音しておくのが流行った。今でいうミックステープだね。

もちろん、山下達郎の出たばかりの『FOR YOU』もよく聴いた。
だけど、1982年の夏のヘビロテは門あさ美さんの『HOT LIPS』だった。
ぶっちぎりで一番よく聴いたアルバムだ。
7月にリリースされたばかりのそのアルバムを最初に持ってきたのはO君だった。
「門あさ美のこの前出たアルバム、めちゃくちゃええで!」

いや、もうたまらん。
少し舌足らずな甘えた感じの色っぽい声。
18才の青少年たちは1曲めの第一声を聴いただけでメロメロになった(言い方が古い!だが、まさにその表現しかない)。
いや、50過ぎのおっちゃんでも魅力的だ。

1982年の夏、このアルバムは自分でもエアチェック(ラジオからテープに録音すること)して、何十回繰り返し聴いただろう。

今、冷静になってこのアルバムを聴き直しても、音楽としても本当によく出来た素晴らしいアルバムで、全曲作詞作曲が門あさ美さん本人で、編曲にはラテンフュージョンで引っ張りだこだった松岡直也さんが参加している。

村上秀一:ドラムス
高橋ゲタ夫:エレクトリックベース
和田アキラ:ギター
土方隆行:ギター
松下誠:ギター
ペッカー:パーカッション
土岐英史:サクソフォーン

参加ミュージシャンも凄まじい。
当時の売れっ子を集めてきたスーパーバンドだし。
TOTO以上にスゴいメンツなんじゃないだろうか。

門あさ美さんは当時もミステリアスなアーティストで、まずテレビなどのメディアへの露出がほぼなかったので、リリースされた音源以外にはどんな人なのか全く分からなかった。
おそらく街ですれ違っても気づかないほど、顔も分からなかった。
こんな声なのできっとそのお姿も麗しかろう、と想像をするしかなかった。

80年代の日本のシティ・ポップが再発見されて流行っているが、是非このアルバムをはじめ門あさ美さんにも気付いて欲しいなと個人的には強く思っている。

その他に1982年にリリースされてよく聴いたアルバムは、こんな感じかな。

アーティスト名『アルバム名』(リリース日)
山下達郎『FOR YOU』(1/21)
門あさ美『HOT LIPS』(7/5)
ヒューイ・ルイス & ザ・ニュース『ベイエリアの風』(1月)
シカゴ『シカゴ16』(6/7)
ホール & オーツ『H2O』(10/4)
フィル・コリンズ『2:心の扉』(11/5)
マイケル・ジャクソン『スリラー』(12/1)
*スリラーは翌年の方が爆発したんじゃないかな。
*佐野元春『SOMEDAY』も82年リリースだけど、「SOMEDAY」が先行シングルで1981年1981年6月にリリースされてヒットしていたので、1982年感は少ないかも

<了>


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