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孤食の夜は吉野家の牛丼で

先日、何年ぶりかに吉野家へ行った。

家族全員が皆珍しく用事があり夕食はいらないということで、だったら仕事帰りに何か買って帰ろうかと思ったのだが、
その日は朝からずっと細かい雨が降っていて、どうも弁当を買って帰るのも面倒だな、と駅前のスーパーやショッピングモールをはしごしながら考えていた。
えいや、もうサクッと何か腹に入れて帰ろう、ということにした。

しかしこんな特に下戸の人間が行く店といえば定食屋かファミレスかファーストフードか、かなり限定されてくる。

どれもなんだかピンと来ないなぁ。
駅前通りを傘をさして歩きながら思案する。

ちゃんとした食事、美味しいものは誰かと食べるものという考えがある。
1人だと面倒なので時間もコストもかけずに済ませたい。
そういう意味ではやはり僕はグルメではないのだろう。

松重豊さんが主演の『孤独のグルメ』は同じ下戸が主人公ということで面白く見ているが、やはり自分1回の食事にあそこまでは凝れないなぁと思う。

遠くにオレンジ色の吉野家の看板が見えてきた。
そうだ、今日はもう牛丼でいいや。

牛丼といえば、すき家、松屋もあるが何処が一番人気なのだろうか。
そういえばなか卯というのもあった。
大阪でなか卯といえばうどんと牛丼を一緒に戴くのが定番だったけれど、関東ではあまり見かけない。

子どもたちはすき家によく行くようだが、やはり僕は吉野家派だ。
昔は牛丼といえば吉野家しかなかったから。
大学時代は友達の家で遊んでいて、腹が減ったら皆で夜中に吉野家へよく行った。
当時の吉野家といえばメニューは牛丼と牛皿しかなかった。
牛皿とは白ご飯を別にしただけなので、そういう意味では一品しかメニューはなかったと言っていいだろう。
牛丼一品で勝負する、素晴らしい。

だけど、僕らは仲間内ではゴム丼と言って半分バカにしていた
バカにしていたくせにしょっちゅう食べに行っていた。
並盛で300円でお釣りが来るなんて学生の見方じゃないか。

牛丼並盛の値段はつい最近までずっと300円でお釣りが来たんではなかったか。

とか考えているとすき家の前を通る。
チラリと店内を覗くと19時半過ぎと食事時にも関わらず半分くらいしか席が埋まっていない。
雨が降っているからだろうか。

交差点を渡って向かいの吉野家に入る。
この吉野家ははじめて入るが小型店舗らしく、カウンターが3本だけで全部で20席もなさそう。
店内には先客はたったの2人。

うわ、すき家も人が少ないと思っていたけれど、その比ではないなぁ。

東南アジア人らしく店員の女性がオーダを取りに来る。
日本語が上手だ。
もはや都心のコンビニやファーストフードは日本人のアルバイトの方が圧倒的に少ない。

牛丼を並盛でください。
オーダすると1分も経たずに配膳された。
これだからファーストフードは楽だ。

仕込みのタイミングによって、玉ねぎに味が染みていない時がたまにあるが、今日は当たりだ。
玉ねぎがくたくた手前でいい具合によく煮込まれている。
紅しょうがを少しだけトッピングして箸でかきこむ。

あぁやっぱり吉野家の牛丼は美味いな。
40年前と何も変わっていない、ゴム丼ぶりは健全(褒めてます、いや褒めてはないか)。

あとから入ってきた男性客は牛すき御膳の大盛りと味噌汁をオーダーしている。
それじゃぁまるでしっかりした食事じゃないか。
吉野家で1,000円近く支払う人もいるんだな、と思いながら牛丼を食べる。
こちらは漬物も味噌汁も卵も何も付けない。
牛丼のみ。
せっかくファーストフードに来たのに500円以上払うなんてもったいない。
浮いたお金で本屋に行って文庫本を1冊買う方がいいや。

サクッと食べ終えて、お勘定をsuicaで済ませる。
税込みで並盛が468円。
え?意外に値上がりしていて少しだけ驚いた。
これでもまだワンコインで十分安いのだけれど、何しろこれまでが安すぎた。

あぁ、そんなケチくさいことを言ってるから飲食店の従業員の賃金が上がらないんだろう。
ダメだな。
いや、何にお金を使うのかは分配の問題なので別にいいんだ。

入店してから10分も経たずに店を出る。
まだ小雨が止みそうもない。

家に帰ってもまだ誰もいないので、もう少し時間をつぶして帰ろうか。
駅前の本屋に立ち寄って、喫茶店でも寄ろうか。
なんだ、結局1000円以上遣うじゃないか。

<了>


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