はじめに
4月17日
高校時代からの後輩とオンライン飲み会をした。彼女とは20年以上の付き合いになるけれど、多い時には年に数回、少なくても2,3年に1回くらいは会っている。
ちょうど彼女と仕事で一緒になったこともあり、
「今、流行りのオンライン飲み会っていうのやってみよっか?」というノリでセッティングした。
飲み会中に、ふと、「交換ノートとか懐かしいね」みたいな話の流れで、後輩から、
「往復書簡、いや、往復書籍とかよくないですか?」
「それ、いいねえ!」
と、私、即答。決定した。
一気に距離を詰めるオンライン飲み会もいいけど、次の連絡が来るまで悶々と待ち続けるコミュニケーションって新鮮かも…と、酔いのまわった私が思ったかどうか定かではないが、「そのアイデアはおもしろい!」と、ピンときた。
[ルール]
・毎月、本と一緒に手紙を送る
・本は返却する
・漫画でもいい(ただし、巻数の多いものは事前に相談すること)
・相手のためにセレクトした本じゃなくても可(未読でもいい)
・すでに持っている本が送られてきたら気が合う証拠なので(心の中で)ハイタッチする
・往復書籍のことは手紙以外で話さない
・やりとりの記録をそれぞれオンライン上に残す
そうして、オンライン飲み会から約1週間後に本を送ることを約束した。
それからの一週間、
「何を選んだら喜んでもらえるだろう」
「後輩から『コレ、知りませんでした』って言ってもらいたいな」
「いっそ、積読エリアから選んで、先におもしろいかどうか判断してもらおうかな」
ああだこうだと頭の中では妄想が広がり、ふわふわとしたいい気分で過ごせた。
1年以上放置された引っ越しダンボールの片付けも着手したし、本棚の整理なんかも進んで、まさに“往復書籍さまさま”だった。
ちょうどその頃にSNSで「7日間ブックカバーチャレンジ」みたいな企画をよく目にするようになったけれど、内心、私にバトンをまわさないでくれーと思ってた(…結局こなかった)。
たぶん、こういう不特定多数に向けた本紹介は、私に向いていない。この本を選んだことで、自分が人からどう見られるかばかり気になって、たいして思い入れのない見栄え重視の選書になってしまう。
だからこそ、きちんとやり遂げている人を見ると「すごいなー、偉いなー」と思ったし、気になる本があれば、ありがたくメモさせていただいた。
いろんなジャンルの人、世代から知識の刺激をもらえた。すごくいいチャンスだったと思う。
話がそれたけど、
本を選んでいる間、そして本が届くまでのの一週間は楽しい時間が過ごせた。
往復書簡の方向性にも影響する、大事な初回の選択…。後輩の5月が充実するような一冊…。
しかし、育児やなんだかんだで、新しく本を読む時間はなかったのだった。
とりあえず、後輩のことを考えた。学校広報に関わる仕事をしている彼女にとって、今年の4月は激動だっただろう。休校要請に関する学内、学外への対応。入学式の中止。忙しい日々だったと思う。一方でどこを見ても暗いニュース、元気だった街が静まり返っていく…街の中心部に暮らす彼女は、きっと敏感に世の中の変化を受信しているだろう。
きっと、いや、まちがいなく心身とも疲れていたはず。
こんな時は、エンタメなんじゃないかな。
私は小説あまり読まないから、それほど引き出しはないけど、現在から離れた、深く考えないで楽しめる娯楽作品にしようと思った。
Amazonより
東京‐大阪間が七時間半かかっていた頃、特急列車「ちどり」を舞台にしたドタバタ劇。給仕係の藤倉サヨ子と食堂車コックの矢板喜一の恋のゆくえ、それに横槍を入れる美人乗務員、今出川有女子と彼女を射止めようと奔走する大阪商人、岸和田社長や大学院生の甲賀恭男とその母親。さらには総理大臣を乗せたこの列車に爆弾が仕掛けられているという噂まで駆け巡る!
著者略歴
獅子/文六
1893‐1969年。横浜生まれ。小説家・劇作家・演出家。本名・岩田豊雄。慶應義塾大学文科予科中退。フランスで演劇理論を学び日本の演劇振興に尽力、岸田國士、久保田万太郎らと文学座を結成した。一方、庶民生活の日常をとらえウィットとユーモアに富んだ小説は人気を博し、昭和を代表する作家となる。芸術院賞受賞、文化勲章受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1960年に刊行され、2015年に復刊した獅子文六の『七時間半』(ちくま文庫)を送ることにした。
あらすじにあるように、東京ー大阪間を結ぶ特急列車「ちどり」を舞台にしたドタバタ劇で、三谷幸喜作品っぽい雰囲気がある。
生まれる前くらい昔の話のほうが、”コロナ禍”の今を思い出さないで楽しめるはずと思った。
それに、この小説の出てくる人に、テンプレ化されたバカな人はいない。みんな、滑稽ながらも一生懸命生きている。自分なりの哲学と矜持を持って働いている。だから、私はこの小説が好きだ。
とはいえ、やっぱり緊急事態宣言真っ只中の現状も無視はできない。
この本を選んだもう一つの理由として、
新幹線が登場し、特急列車「ちどり」と食堂車が廃止になるらしいという噂の中で、みんな自分の仕事はいつかなくなるかもしれないと感じながら働いていること。
登場人物たちが「今のままの生活は続かないだろう」と、その次を模索しながら日常を過ごす姿と、今を重ねたのかもしれない。
後輩へねぎらいの言葉を書いた手紙と、地元のコーヒースタンドSocket roast worksのコーヒー豆をつめて送ったのだった。
さて、後輩からはどんな本が届くのだろう?
獅子文六の『七時間半』を受け取って、どんな顔するだろう?
静岡県東部で執筆・編集業をしています。みなさんからのスキが励みになります!