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日曜日のきみに

日曜日のきみに


青い空に雲がゆっくりと流れてゆく
ただそれだけのことなのに
これを美しいと思うように
人の心が作られているのが不思議だ


人が空を見上げるのって
どういうときなんだろう
太古の昔から
人は空を見上げてきたのだろうけれど

「山のあなたの空遠く
 幸い住むと人の言う」

二、三十代のころ
ブッセの詩片を思い浮かべながら
住宅街の向こうに広がる空を
小さなベランダからよく眺めていた

ワンルームマンションの面した細い路地に
子供の声が響いている日もあって

なんで急に
こんなことを思い出したのか
穏やかな一瞬一瞬が
あのころにも存在していたと

今わたしは昔とは別の土地にいて
また空を眺めている
雲がゆっくりと形を変えてゆく
その妖艶さに
ただ心を奪われている



 この詩は、わたしの第二詩集『LAST DAY OF SUMMER』の中の最後の一篇です。

 わたしは若いころ、ずっとうつ病気味だったのもあって(気味というか、実際病院でうつ病と診断された)、今社会に出たら自殺するんじゃないかと思って大学を卒業後も大学院に進学しました。うちの実家はお金に余裕がなかったのですが、自殺されるよりましなはずと自分に言い聞かせて、「研究者になりたいから」と親に嘘をついての進学でした。バイトをしていましたが、バイトをすると勉強する時間がなくなるし、そもそも理系でもないのに大学院なんか行って研究者になるしか就職の道はないのに自分には研究者になれる才能なんかないのも分かってきて、その間にも奨学金という借金はどんどん膨らんでいって、将来に対する不安というか恐怖しかなかったです。

 当時はワンルームマンションで一人暮らしをしてたのですが、そのベランダから外をよく眺めていました。見晴らしがまあまあよかったんです。そういうときに、昔教科書ででも見たのでしょうか、「山のあなたの空遠く/幸い住むと人の言う」という詩片が、ふと口に出ることがありました。ベランダでぼーっと外を見ているほんのひととき、あー、今、幸せだなあ、ってなぜか思ったんですよね。あんなにつらい時期だったのに、なんでそう思えたのか、今思えば不思議です、、、

 その後、新聞のチラシで見つけた派遣の仕事を数年して、韓国に語学留学までして、結婚して、生活も落ち着いて、なぜだかどうにかなっています(笑)。昔よりもっと穏やかな気持ちで空を眺められるようになりました。どうやったら自分の人生がうまくいくようになるのか、自分の何がよくないのか、まったく分からなくてただ足掻いていたような感じだったのに、気がつけばある時から生きやすくなっていました。(もちろん今でもまったく波がないわけではありませんが。)なので、誰でも、人生ってよくなるようにできてるんじゃないかな、とわたしは思っています。

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