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ABA(応用行動分析)のこと〜出会い編

コウの障害がわかって、療育センターに通うようになってからの私は、たくさん努力したと思う。
コウとの関わり方をたくさん学んで、知識を得て、それを実生活に活かして…。そう思って研修会にも参加したし、たくさんメモも取ったし。

でも。
息子との関わり方を体得するのは難しかった。
知識を得た時は「なるほど!』と思う。
問題に対して解決法を提示されれば「やってみよう!」と思う。
でも、どれも行き当たりばったりで、全てが点で、全然繋がらない。
そして当然、学んだ通り、教科書通りには問題は解決しない。
学んでも学んでも、問題は山積みで、モグラ叩きみたいにひとつひとつ解決しようとしている間に次の問題が発生して…キリがなかった。

そんなある時、主治医の先生が先輩ママを紹介してくれた。

「お子さんと関わり方のとっても上手なお母さんがいるんだけど、会ってみない?関わり方のヒントを教えてもらえるんじゃないかと思って」

そう言ってその先輩ママさんの連絡先を教えてくれた。
診察のたび、療育の教室で会うたび、困り事ばかり話す私だったから、私が点でしか問題解決の糸口が見えていないことは先生にはよく見えていたんだと思う。
天才的ににこどもとの関わり方…療育のセンスがあるお母さんは存在する。
でも私はそうではなかった。
努力はするけど空回りで、いつもしんどいなあと感じていた。

見ず知らずの人に「はじめまして」のメールを打つのは緊張したけれど、そんなわけで私はとにかく一歩を踏み出した。

そのママさんは女優の松下奈緒によく似た美しい方だったので、ここでは奈緒さんと呼ばせていただく。
奈緒さんは明るくて聡明で、クラスにいたら人望の厚い学級委員タイプの女性だった。
初対面の日、私があれこれ質問を考えていたのがなんだったのかと思うくらい、完全に奈緒さんのペースで、これまでの経験…いろんなことを話してくれた。本当に面倒見の良い方なんだなとほっとした。

奈緒さんの息子さんも同じようにすごく多動で、言葉がなくて、毎日泣いて面倒を見ていたこと。
それから、私と同じように療育を学び始めたこと、今はそしてお子さんにじっくり関わっていろんなことを教えていること。

「うちのユキオも、本当に大変で、悲しくなることばっかりで。
でも、丁寧に教えているうちにいろんなことが少しずつわかってきて。
普通の子なら1回で理解できることも、100回教えないと伝わらないかもってこともあるけど。
でもそうやってひとつひとつ丁寧に関わるうちに、わかることが積み重なってできる事が増えてきてるの」

教える?教えるのってすごく大変じゃない?
大体目も合わない、言葉も通じない(聞いていないように見える)、そんなコウに丁寧に教えるって?
どうやって?
そう思っていた私に、奈緒さんはいろんな教材を見せてくれた。

「大きい、小さいは、このスーパーボールで何回も教えたの」
奈緒さんが見せてくれたのはお祭りでもらうようなスーパーボールの小さいのと大きいの。

「丸とか四角とか形はこうしてカードを作って、これもひとつひとつ」
ラミネートされたカードには「⚪︎」「□」「△」

「それから、いろいろわかるようになってからはこんなのも」
そう言って見せてくれたのは、男の子と女の子の写真が数枚ずつ。
男の子と女の子の違いもこうやってカードを作って、これで「男の子どっち?」「女の子どっち?」って教えたの、と奈緒さん。

…気が遠くなる。
聞けば、奈緒さんはABA(応用行動分析)という療育をやっていて、そのスケジュールに沿っていろんなことに取り組んでいるとのこと。

「ほんとに、何にもわからない子だったんだよ。
でも、こんなにわかるようになるんだって驚いているの。
コウくんもきっと絶対変わっていくよ、うちのユキオみたいに」

きっと大変な取り組みに違いないと思った。
でも、奈緒さんの言葉に私は関心を寄せずにはいられなかった。

私は奈緒さんにいろんなことを質問した。
何より「どうやって教える環境を作ったのか?」
というところが最大の疑問だった。
そもそも「座ってカードを選ぶ」なんて、コウには絶対無理だ。
そう思った。

「難しいと思うでしょ?実際そこが本当に難しいんだよ。
椅子に座ってやりとりするっていうところまでがまず最初の難関。
でも、うちにはセラピストさんが来てくれていて、わからないことを教われるから。セラピストさんに最初から関わってもらえて本当にラッキーだったの」

見たい。
その様子を見たい!

私の気持ちを察してくれたのか、私が言うより先に奈緒さんがにっこり笑って「よかったら、セラピーの様子、見に来ませんか?」そう言ってくださった。

それから程なくして、私は奈緒さんの自宅に伺って、セラピーの様子を見せてもらった。

息子のユキオくんはコウとは天と地ほど違っていた。
きちんと座って、先生とやりとり。
ひとつひとつカードやおもちゃを使って教わりながら、セラピストの先生が場面場面でお母さんにアドバイス。
セラピストさんはこれまた浜崎あゆみに似たとってもかわいい人で、ここではあゆ先生と呼ばせていただく。

あゆ先生は若くて、はつらつとして、テンポよくユキオくんに関わっていく。そして褒めるのがなんと上手なことか!

私には目の前に繰り広げられる光景がとてもとても眩しく見えた。

30分ほどのセラピーを終えて、奈緒さんが気を利かせて私とあゆ先生が話す時間を設けてくれた。
セラピーを見ているうちに私の気持ちは固まっていた。
”もし可能性があるなら…私もコウとの関わり方を学んでいきたい”
私はその意思をあゆ先生に伝えた。
当時のコウの診断はおそらく高機能の類の自閉症スペクトラムではないかと言われていたし、「早期介入、早期療育」が何より大事とよく耳にしていた。
だから少しでも早く、できることを体系立てて教えていきたいと思った。

あゆ先生は若いけれどとてもしっかりしていて、知識のない私にABA的関わりについて色々教えてくれた。
お話を聞いているうちに、セラピーを行うことで、だんだんコウも座れるようになる気がしてきた。

…でも、私はユキオくんみたいにコウが座っていられるようになるとは到底思えないし、ユキオくんみたいになんでもできるようになるなんて想像できなかった。
その気持ちも正直に伝えた。

あゆ先生はしばらく考えた後こう言ってくれた。

ユキオくんのところまで2時間くらいかけて電車で通っているんですけど、コウくんのおうちはその帰り道にあたるから、ユキオくんのセラピーの帰りに、よかったら伺いましょうか?

こんなラッキーなことってあるだろうか。

聡明で美しい奈緒さんとあゆ先生に見送られて、私はすっかり前向きな気持ちになっていた。

「困ったことがあったら、いつでも連絡してね」

奈緒さんの言葉が私の背中を押してくれた。


帰り道、あゆ先生の宿題を果たすため、買い物をした。

初回訪問までの母への宿題。
とにかくコウの好きなもの、好きそうなものをたくさんピックアップしておくこと。
それはおもちゃでもいいし、食べ物でもいいし、おもちゃも、きちんとしたおもちゃじゃなくても感触遊びをする道具でもいいし….。

あゆ先生のアドバイスを反芻して、100均でスライムや粘土やマジックを大量に買い込んだ。
小さなチョコレートやグミも。

どんなに真っ暗でも、ヘッドライトが点っていれば車が前に進めるように、当時の私には「わかりやすい指示」が必要だった。
そして「どこへ向かっているかはわからない。でも、後ろは向いていない」
そう信じられる安心感が。

私はそれから、暇さえあればコウの好きなものを探すようになっていった。

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長いこと書かない間にすっかり年末に!
みなさんお元気ですか?
みなさんのnoteには時々遊びに行って元気をもらっています。
いつもありがとうございます。


いつもの散歩道もすっかり冬景色




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