八十四歳の母が蘇った話
84歳の母が、白内障の手術を受けた。
1週間の入院を経て帰宅すると、劇的に上がった視力に感動しきりで、
「家が広い!」
「白が白い!」
などと興奮している。
テレビ画面を観て、「こんなに綺麗やったん!?」と、
とにかく、「全てが〈カラフル〉」で、「生まれ変わったようだ」と。
翌朝、顔を合わすなり、「(私の名前)、あのな」と、真顔で話しかけてきた。何事かと、洗面所に行く足を止めた。
「○○○○子のシワすごいねん!」
「は?」
「夕べ、テレビ観てて、あの人が笑った瞬間ビックリするくらいのシワ!」
それはちょうど私と同い年の美人演歌歌手のことだった。
84歳の自分を棚に上げて、もはや、清々しいな、と思う。
それから、長らく遠のいていた、手芸をまた始めた。
随分前に、「もう目が見えへんから・・・」と、溜まっていた生地を人にあげたり、手持ちの手芸用品一式も最低限を残して、私に押し付けた。
それなのに、手術後は「メッチャよう見えるから、また何か作りたい」と、兄に買い与えられたipadで、Youtube 動画を熱心に検索している。
そして、あっという間にニット帽を二つ完成させた。
「どう?」と嬉しそうに私に被って見せる。
なぜニット帽かと言うと、手術の後は、しばらく毛染めは控えるよう言われていて、白髪が目立ってきたから、それを隠すため。
それを聞いていたので手術直前にしっかり美容院で染めていたが、もう生え際が気になるらしい。
「見て、ほら。いややわ~」
ずっと生え際を気にしている八十四歳。
若干1センチほど白いのが気に入らないらしい。
ぶっちゃけ、「もうええやん」と思うが、もちろん口には出さない。
その後も、Youtubeを観ては、裁縫道具とミシンを引っ張り出し、次から次へと袋モノを中心に完成させていく。
そして、ある朝また呼び止められる。
「昨日、ラジオで聞いたんやけど・・・」
G3sewing という、八十二歳でソーイングを始めた男性の話をした。
「商売になっているなんて凄いな!82歳やでー!」
と目をまん丸くして感心しながら話す。
自分も…、という野望があるのかはわからないが、手術から2か月経った今も、毎日ミシンに向ってせっせと作業をしている。
すっかり腰の曲がった小さな体で、「次は何を作ろうかな」と、ワクワクしながら、ipadを操作し、ミシンや編みものに精を出している、その姿は八十四歳とは思えない、エネルギーに満ち溢れている。
何かを作り出すというクリエイティブな行為は、脳を活性化させ、心身ともに若返らせる作用があると、その姿を見て確信する。
自分も絵を描いたり、文章を書いたり、また、母と同じように手芸も好き。
だから、老後も母に負けないくらい、やりたいことがある。
10年後も母と一緒に、創作活動にいそしんでいたい、と思う今日この頃。
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