『ドラゴンボールの息子』その12「我が家の映画教育」
僕は子供の頃から、
本を読むのが本当に苦手でした。
『でした』とは克服した人の言い方で、厳密に言えば『今』も苦手です。
『お前は、もっと本を読まなきゃダメだ!』
脚本家である父から、何度この言葉を言われてきたかわかりません。
実際、子どもの頃に読んだ記憶がある本といえば、夏休みの読書感想文を書くために「この短さなら、お前でも読めるはずだ」と父が用意してくれた芥川龍之介の短編『蜘蛛の糸』くらいなものです。
そんな『本嫌い』な僕がなんとか脚本家として生活が出来ているのは、『映画』を通して物語に触れ続けてきたからだと思っています。
でも、僕に映画を教えてくれたのは意外にも父ではなく母の方でした。
若い頃から映画が好きだった母は、僕が小さな頃から、事あるごとに映画館へ連れて行ってくれたのです。
『スピード』や『ターミネーター』などのアクションもの、『ホームアローン』などのコメディ、『フォレスト・ガンプ』などのドラマ系といった感じで、ジャンルを問わずに色んな映画を僕に見せてくれました。
また、うちの母は何事にもいいリアクションをする人なので、映画を観ていても素直に感動したり興奮したりと大忙し。
そんな人と一緒に映画を観ていると、こっちまで楽しくなってくるから不思議ですよね。
もしかすると『観客の気持ちを考える』という脚本家としてとても大事なことを、あの頃に僕は自然と学んでいたのかもしれません。
そんな母と一緒に観た思い出の映画の1つに『ベイブ』という作品があります。
この作品は、見ての通り『可愛い子豚』が主役の映画です。
養豚場で育てられていた子豚・ベイブは、ひょんなことから農場を営む老人のもとに引き取られます。
老人はベイブをいずれ『ハム』や『ベーコン』にして食べるために農場で飼い始めるのです。
しかし、ベイブは純真無垢な性格で農場のほかの動物たちに可愛がられ、最終的には農場の羊を管理するための『牧羊犬』ならぬ『牧羊豚』になって生き残るという子豚のサクセスストーリーでした。
この内容には子どもの頃の僕も感動して、とても幸せな気持ちで映画館を後にしたのを覚えています。
それから、母が『今日は贅沢をしよう』と言ってホテルのランチバイキングに連れて行ってくれたのです。
そこに並んだご馳走を見て、僕は思いました。
『あぁ……ベイブはこんな風に料理されなくて本当によかったな』と。
だから、僕は自然と豚肉料理には手を伸ばしませんでした。
でも、こんな僕のピュアな気持ちはあっという間に崩れさってしまうのです。
うちの母のお皿には沢山のベイブ……
いや、豚肉が乗ってるじゃありませんか!
僕は思わず言いましたよ。
「お母さん、それってベイブなんじゃ……」
母は優しい笑顔で言いました。
「でも、このお肉美味しいよ?」
この時、またも僕は母から大事なことを教わってしまったのです。
『映画と現実は別物』であることを!
この後、僕も結局、母に続いてベイブ……
いや、豚肉を感謝して頂きましたとさ。
めでたし。めでたし。
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