地域の復刻に挑む人(岐阜県郡上市石徹白 平野彰秀さん)
霊峰白山の麓にある岐阜県郡上市の石徹白(いとしろ)。
先日、集落の全戸出資による小水力発電事業の中心メンバーである平野彰秀さんを取材しました。ことし、平野さんは総務省主催の「ふるさとづくり大賞」で優秀賞を受賞されました。
石徹白は昭和30年頃までは地域で設置した小水力発電で集落の電気を自給自足していましたが、当時の技術では電圧が安定しませんでした。高度成長期に突入し、住民たちは電力会社を頼る道を選びます。
こうして一度は無くなってしまった小水力発電を復活させて、地域再生のシンボルにしようと考えた一人が平野さんでした。
2010年頃、平野さんは東京の外資系コンサルティング会社で働いていましたが、故郷である岐阜のまちづくりに関わりたいという思いから、石徹白に通い始めます。やがて会社を辞めて移住し、小水力発電に取り組むようになります。
現在、石徹白には小水力発電機が4機あります。売電収入はなんと年間二千数百万。それは耕作放棄地の再生や高齢者の買い物支援といった地域課題の解決に使われます。
加えて、街灯、公共施設の電気代にも充てられます。これにより、住民が支払う自治会費は半分以下に軽減されました。
平野さんは小水力発電以外にも、地域活動をいくつも行ってます。「水力発電のために来たというわけではなく、地域づくりを目的にやってきた」と語ります。
石徹白地域づくり協議会の事務局員として、移住促進や山村留学、地域おこし協力隊の募集から採用、面倒見までボランティアでやっています。石徹白のためになることはお金にならなくてもやると決めています。
一方、外の仕事、特に講演は受けません。私がこれまでに取材した大半の人は講演を積極的に行っているので、新鮮でした。
各地から多数のオファーを受けている平野さんが講演をやらない理由はシンプルです。「地域のためにならないから」。
講演など外の仕事は手っ取り早く稼ぐことができる面があります。地域の仕事だけで生計を成り立たせていくのは平野さんにとって、一つの挑戦でもあるそうです。
妻の馨生里(かおり)さんも素敵な活動をされています。石徹白に伝わる伝統的な衣服を復刻させて、製造販売する「石徹白洋品店」を平野さんとともに経営されています。
ご夫婦にはお子さんが4人いらっしゃり、仕事、暮らし、地域活動、育児が一体となった日々を送られています。
平野さんは「家族で過ごすとか、地域の人達と顔なじみで安心みたいなことが都会では失われている。昭和30年代とか40年代とか、そういった時代の暮らしが石徹白ではできる」と語ります。
ちなみに、平野さんは企業から「小水力発電をつくりたいから相談にのってほしい」という連絡を良く受けるそうです。(住民主体のもの以外は全て断っているそうですが)
企業の人に小水力発電に興味を持った理由を聞くと「今度SDGsの担当になったから」「SDGsの部署を立ち上げたから」というのがほとんどだそうです。企業の都合ですね。
私も企業の動画制作をした際に「何でもいいからSDGsを入れてくれ。社長の受けがよさそうだから」と言われたことがあります。こういう日本的な忖度はいい加減なくなってほしいものです。
SDGs活動は組織の論理からではなく、個人の内発的な動機から行ってほしいですね。平野さんはまさにその模範です。
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