神様のアトリエ
神様に出会った日 な話。
長年精神を患っている方の家へ伺った時のこと。
日当たりの良いその部屋は、家主が描いた油絵が心地良さそうに陽の光を浴びていた。
趣味で描いていると話す作品達は素人目に見ても趣味の域を超えており、どうして額縁に飾られ審美眼を持つ大勢の鑑賞者の目に留まる美術館に展示されていないのか疑問を感じるほどだった。
部屋の中無造作に置かれた油絵たちは、のびのびと光を放っていてこの場所がきっと作品たちにとってあるべき場所なのだな とじんわり思えた。
「ようこそいらっしゃいましたぁ」
朗らかに挨拶し、最近自分が凝っているモノについてひたすら話し続ける姿は、幼子のようにも巨匠のようにも見えた。
身振り手振りが徐々に大きくなり、陽に照らされた埃がふうわりと舞う。
室内はあたたかく、ウトウト微睡んでしまう。
油絵に描かれた街の灯りがあまりにも美しく、まっすぐに観る者の心を打つ。
「さよーならぁ」
玄関を背にすると、先ほどまでの神々しい風景から一変しごくごく平凡なマンションに姿を変えた。
私が帰った後も、その先も、そのまた先も家主は思い思いに心の風景をキャンバスに描くのだろう。
神様のアトリエを訪れたような、不思議な心地のよい時間だった。
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