吉本ばなな作品との日々
好きな作家、と聞かれると迷う。気になる作家は割とすんなり出てくる。吉本ばななもその1人。人生のしんどい時期に読みたくなる。
初めてちゃんと作品を読んだのは20代前半の頃だった。名前は随分前から知っていた。実家に親の買った「キッチン」があった。中学生の私は「何だかよく分からない話だなあ」で終わってしまった。
社会人になり、毎日毎日社内で怒られ、取引先に相手にされずに結果も出せず、しかも失恋や肉親の死が重なって、くたびれ果ててしまった。活字が読めなくなり、ニュースも頭に入らない。そんな時、なぜか吉本ばななの本だけは読めた。それからしばらく読まなくなり、また読み始めたのは流産した時だった。
もしもし下北沢、スナックちどり、さきちゃんたちの夜、どんぐり姉妹、みずうみ、なんくるない。
随筆も色々読んだ。
救いだった。ボロボロになった魂に、あたたかい光の粒が染み込んでいくような。ひび、赤切れだらけの手にめちゃくちゃ効果のあるハンドクリームみたいな(笑)
ただ、ご本人にお会いしたいとは思わない。「優しくて、礼儀正しく、善良だけど、自分の頭で考えられない人」とか言われそう。時々、スピリチュアル寄り過ぎるように感じてしまう。癖の強い親戚で、お盆や正月に会うと嬉しいんだけど、くたびれる…というか。そっと遠くから、作品を読んでいたい。
言葉や表情、立ち振る舞いは時として雑音になる。本当に伝えたい事、言いたい話が伝わらない。
文学はそれを飛び越えて人と人をつなぐ。それは素晴らしい事だし、芸術にしかできないことだと思う。
小説を読める人生、文学を馬鹿にしない環境で生きられる事は幸せだ。
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