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4.ママを男に取られた

プロローグから続いています。


ある日
再婚相手の人が結婚式などの話のためなのか家に訪れた。
着々と結婚式や引越しの段取りも進み、
今思えば最後の挨拶というものだったのだと…

玄関前に母と二人で出迎え、
その人が発した第一声に私は驚いた。

こんなところに住んでたの?

私は、自分や家族を否定されたかのような
これまで感じたことのないような胸が痛みを感じた。


祖母は近所の魚屋で仕入れ
とびっきりのお刺身などを用意して待っていた。
あれだけ激しい喧嘩を母とするほどだったのに、
前日から冷蔵庫を整理し、
キンキンに冷やしたビールとジュースも用意されている。
でも、乾杯してたあと、取り繕う笑顔の母以外
笑っているようには見えない。

話が弾む訳もなく、
淡々と大人たちが話しているのを聞きながら
私はご馳走を眺めていた。

お刺身カピカピになっちゃうなぁ。

誰も手を付けない。
祖母が途中で気が付いて、
取り箸を持ってきてから再婚相手が2、3口食べた。
その斜(はす)向かいでは、
祖父がいつものサントリーの「だるま」を淡々と飲んでいる。

そして再婚相手は、
六畳間のすぐ横、
覗き込めばすぐ視界に入るくらいの台所を見たり
何のためなのか和式トイレを見たりし、
すぐ見渡せる家を一通り見学した後
挨拶だけは丁寧に、
そして、そそくさと帰って行った。


母に連れられ私も見送りに路地に出る。
そして、こう言われた。

マキちゃん。
こんな小さなところに住んでいちゃ人間が小さくなるからダメだ。
早く私のところに越して来なさい。

笑顔で見送る私を尻目に、
胸の辺りがまたズキズキした。
これは何?
ズキズキする。
胸が痛くてたまらない。
私の幸せな家が
かき消されてしまったのか。
否定されてしまったのだろうか。
本当に悲しかった。
涙を堪えることで精一杯だった。

ママ、気付いてよ!
ママ、何か言い返してよ!
そんな想いで横を見ると
頬を緩ませた笑顔が見えた。
まるでそこに私が存在していないかのようだった。


それから数日が経ち、
再婚相手の実家であるお寺で仏前結婚式が行われた。

ベルベッドのリボンを髪に結い
お嬢様のようなワンピースを着た私は、
新しい親族となる人たちに紹介された。

祖父母のほか、母の実父に引き取られた姉弟、
その他ごく身近な親戚や母の友人数名も参列していた。
祖父母も精一杯の笑顔で、再婚相手の親族にお酌して回る。

私も精一杯の笑顔で、
新しいお父さんができる喜びを表現して回る。

お寺は広く、
本堂のほかにも住居部分など
沢山の部屋があった。

大人たちが盛り上がり
一人になりたくなった私がふらふら廊下を歩いていると、
トイレに立った叔母に出くわし呼び止められた。

マキちゃん。
お母さんの結婚を喜ぶのよ!
お金持ちになったんだから、
お母さんは幸せになるの。
それに、身近にこんなお金持ちが一人いれば、みんなが喜ぶから!


一体おばさんは何を言っているのだろう。
私には分からない。
私の心にシャッターが下りた。

私は喜ばなければならない。
ママにとってはこれが幸せなんだ。
明日から、あの人をパパと呼ぶんだ。
そうだ。
きっとこれが「幸せ」というものなんだ。
そう自分に言い聞かせ、
私の心のにシャッターを下ろした。

帰りたい。帰りたい。
男にママを取られた。

そんな私の心の叫びに
シャッターを下ろした。






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