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13.誰にも邪魔はさせない

プロローグから続いています。



単位制の高校は
毎日クラスメイトが教室に集まるようなことはなかった。
月に数回ほど
職員室ではなく担任の先生の部屋に集まり
ホームルームをするだけというもの。

クラスメイトは現役の高校一年生が半数
別の高校を辞めて来た人が半数といった具合だった。
それぞれ自己紹介はしたものの、
お互い過去の話を根掘り葉掘りすることはない。
みんなそれぞれ「何か」があってここに来たのだろう。
誰一人、まったくといっていいほど暗さは無かったが、
ふとした瞬間に見せる
どことない陰のようなものがあるように感じた。
きっと私と似たようなものなのだろう。


普段は自分の授業の時間に履修している科目の教室に向かう
大学のようなシステム。
制服もなく自由な反面、自己管理が必要となる。
だから卒業率は6割だと聞かされていた。
でも、私には卒業の心配がなかった。
3年で卒業できなければ居場所がまたなくなるからだ。
それしか頭に無かったから、
無心で毎日学校に通っていたのだ。
そして気心知れる友達もすぐに出来、
改めて高校生になった生活を楽しみ始めた。



高校に進学すると、私はすぐにアルバイトを探し始めた。
高校へ入学できたとは言え、
学費や生活費などが必要だからだ。
この頃母は、相変わらず自宅に食料などを届けながら
仕事を探していたのだろう。
行き先は告げずに、日中、家を出ることが多くなっていた。


祖父母宅に戻ってから一ヶ月。
身の回りの世話や食事面などを祖父母が賄ってくれていたが、
母と祖父母との溝は一向に埋まらないでいた。
祖父母は私に対して何でもやってくれた。
以前のように私に愛情をたっぷりと傾けてくれていたのは
わかっていた。
でも、母の手前なのか自分が成長したからなのか
5年くらい離れて暮らしたためなのか…
昔のように甘えることができない私になっていた。

だから私は遠慮なく、
自分で稼いで自分の生活を自分でみようと心に決めた。

本音を言えば、
うんざりだったというのがあったのだと思う。
目の前に「幸せ」がくるたびに必ず壊れていく。
そういうところをもう見たくなかった。
もう誰にも自分の邪魔をされたくなかった。

誰にも何も言わせない。

自分で稼ぎ、自分のお金でやりたいことをやれば、
きっと誰にも邪魔はさせられない。
きっと誰にも文句は言われない。


そして私は学校にいる時間と同じくらい
アルバイトをするようになった。
私の条件は二つ。
時給の高いことと、賄い(まかない)が付いていること。

高校に入るとすぐに
近所の中華レストランからアルバイトを始めた。
そしてここから3年間、
自分の学費を自分で納めるようになっていった。

でも、次第にそれだけでは飽き足らなくなった。
友達とファミレスに行ったり
カラオケにも一緒に行きたくなっていったのだ。
当時、高校生の間で流行っていたポケベルも欲しい。
私は普通の高校生活も楽しみたくなっていた。
普通の暮らし、普通の高校生に夢見ることも多くなったのだ。


私は親戚の人に紹介してもらった
現場仕事を始めるようになった。
安全ベストを身に付けヘルメットを被り、
都電の線路際の雑草を刈っていく仕事だ。
賄いはついてないが日給を1万円近く貰える。
お昼ごはん代を差し引いても、貯金までできる金額だ。
ポケベルだって買える。

だから、日陰の無い炎天下の中、
線路際の雑草を一日ひたすら刈っていくそのバイトに
夏休み中勤しむことにした。
他の作業員のおじさんたちと同じように、
休憩時間になると人目もはばからず
道路で昼寝ができるようになる。
ルーズソックスが流行りはじめ
女子高生ブームが到来している中、
洋服を絞れるほどの汗をかきながら
黙々と現場仕事に励んだ。


こうして一つ一つ自分の道を切り開き、
一つ一つ自分の願いを自分だけで叶えていく。
もう止まることも振り返ることもしたくない。
忙しくして、悲しさや淋しさも感じなくすればいい。


次に意識が向かったのは「留学」という二文字。
夏休みが終わり学校が始まると、
廊下に張ってあった「交換留学生募集」の文字に釘付けになった。
それも、東京都の姉妹都市への交換留学だったから、
費用負担はすべて東京都で出してくれるという好条件。
私はこれに賭けた。

2週間という交換留学だったが行ってみたい。
東京都の各姉妹都市ごとに5人選抜という狭い枠。
もう手放したくない。
いや、自分で掴んでいく。


アルバイトの間に受験の時を思い出したかのように猛勉強をし、
ジャカルタ(インドネシア)枠に合格することができた。
そして短期間ながらインドネシアでホームステイし、
ジャカルタの高校へ通うことが出来た。



誰にも何も反対されることは無かった。
私は確信していった。
自分で掴んだものは邪魔されない。
私はもう誰の邪魔もされずに、
自分の人生を掴んでいくのだ。


もう誰にも邪魔はさせない。

もう誰にも邪魔をされなくない。

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