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滞在記

なかなかの雨。
本当は苦手。

小さい頃、濡れるのも
そういえば
海水浴で、砂にまみれるのも
嫌だったことを思い出す。

それでも、45年、生きてきたら
それが、一瞬のことで
砂は洗い流せるし
濡れても乾くし
乾いたら
砂粒もポロポロと
簡単に落ちることも、知っている。

雨上がりに
ご褒美みたいな虹が
顔を出すことも。

そんなことを考えながら
傘をさして
蛍茶屋の電停から
今日の私の居場所へ
歩みを進める。

一昨年の年末
奇跡の重なりから
折り畳み傘をさして向かった
3人で対談をしたあの日も
雨だった。

「おはようございます。」

開店15分前
もう、準備は整っていてるようで
入り口の扉は開いている。
背中から先に体をねじ込んで
濡れた傘を閉じ、傘立てへ。

「雨漏りが、心配で、、、」

昨夜の閉店後に
ネットで注文が入った分の対応をしたり
開店のお知らせの準備をしたり
いつもは一人のはずの時間に
お邪魔して
裏側を見せてもらうのは
もう何回目だろう?

一昨日、顔を出すかも、と
宣言しながら叶わず
昨日も、知人を連れて行きますと
言いながら、実家の椅子に
根が生えそうになるのを断ち切って
夕方、一人で行ったので
たいていの近況報告は、済んでいる。

8時から放映されていた
WBCの準決勝を
これまで全く
気にも留めてなかった母ですら
視聴予約をしていたことを思うと
日本中の人がテレビの前に居るはず。
今日は、春分の日、祝日なんだし。

すっかり店のBGMとして
定着した「spitz」が
「楓」を歌い始めると
メロディーが
私の分厚い肉の壁をすり抜けて
目に見えない軟弱な臓器の扉を開き
歌詞の言葉の一つ一つが
大きく小さく
私に降り注いでは
刺さったり散ったりして
雫に変わって
目からこぼれ落ちていく。

twitterで呟やいて
バックからハンカチを取り出し
2Fに上がり
古本に囲まれた赤い椅子に座ると
目を拭った。

「spitz」には想い出が詰まっていて
それゆえ、聞けない時期があった。
その理由を作った人のことも
そうさせた醜い自分のことも
その時の光景をも思い出してしまって
苦しくなる。

それが今では
ここで1日中、浴びていても平気になり
いや、今は、泣いているけれど
たいていの曲は、聞き流せるし
歌いもすれば、鼻歌も。

そんな時が来るなんて
思っていなかったし
月日と事柄と
関わる人たちのおかげで
「今」を迎えられているのだと思うと
「雫」の理由も意味も変わる。

1回に下りると
「何ですか?あのtwitterは?」と
店主が言うので
軽く説明して
私のいつものポジションに立ち
昨日とは違う、他愛もないことを話す。

気がつけばお昼前。
もうすぐ野球が終わって
午後が動き出すことを想定し
早めに昼食をとるため
ファミマへ調達に。

温かいものを欲していて
でも麺は、違うくて
春雨スープにお湯を注いで
蓋をして持ち帰った。

店に戻ると
若い女性が「ZINE」コーナーを見ている。
匂いも気になるだろうと、春雨スープは、2Fの奥の部屋のテーブルに置いておくことにした。

「知ってる人ですか?」
店主に小声で聞くと、首を横に振る。
しばらく様子をみていると
長女の作品を手にしているのが見えた。
思わず1歩踏み出し
声をかけようとすると
振り返る彼女は
見覚えのある子で
向こうも、私に気付いて、目が合った。

長女が3年近くお世話になった
バイト先で知り合ったお友達で
昨年の11月に、長女と佐賀に遊びに来て
我が家に2泊してくれた「Dちゃん」だ。

長女がウニマキに参加してることも知ってのことだろうけれど、あれ以来、製作室のアカウントをフォローしてくれていて、何なら
日々の記録にも、時々、足跡が。
もしかしたら、長女の知らない私の一面を知ってるかもしれないし
友達のお母さんというより
「makijaku 」として見てくれてる気がしていた。
長崎会場最終日に来てくれたことも嬉しく、「D」ちゃんの近況も聞きながら、佐賀でのことも振り返り、我が家の内情を、店主も共有していく。
本日、第1号の写真も一緒に撮って、まだまだ広がりそうな話に無理矢理、蓋をして、お友達との待ち合わせへと急ぐ彼女を見送った。
春雨は、いい感じに膨らんで
本当は、食べたかった「フォー」みたいになっていて
あの子は、魔法使いなんじゃないか?と思った。

次に来てくれたのは、なんと「edico」の香歩さん。
リレーかもめと、新幹線とで、佐賀から。
列車の中でも原稿を書いていたらしい。
この間の打ち合わせの帰りに、ウニスカさんへも行ってみたいと言ってくれていて、多忙な中、本当に来てくれたことが嬉しい。
「ZINE」が好きな者同士、繋がって、今や、イベントの企画のメンバーとしても横並びで居れる距離感に。
長崎で、ウニスカさんで、それも共有できることは、非日常でしかない。
本日、第2号の写真を撮って、佐賀会場での再会も楽しみに。

金曜日の夜、中華を一緒に堪能した
短大時代からの親友「mae2」が
妹ちゃんと来てくれた。
実は、土曜日の「伝習所まつり」に
私が居た時も、観光通りに寄ってくれたので
今回の5泊6日の帰省のうちに会うのは、3回目。
そして、昨年のウニマキの時にも、姉妹で来てくれた。
彼女と会えることは、このところの定期的な帰省の中での楽しみの1つ。
美味しいものも、近況も、過去のことも、共有できることは有り難い。

2Fを案内して、1Fへ下ると、水色のレインコートを着た女性が店主と話していた。
どうやら、昨日、店主から話をうかがっていた方。
会期スタートの頃、私のZINE「22+22=44」を購入下さり、私のサインを欲しいと、在廊日に来て下さったそう。
お持ち下さった箱を開け、中身を出すと
底の方に書かせてもらうことに。
その様子を、とても立派なカメラで撮って下さった。
サインを求められたのは、実は、初めてで
なんて書こうか、一瞬、迷って
「makijaku 」と書いた。
読んだ感想を彼女の言葉で伝えてくれて、嬉しい。
それぞれがキャッチしてくれたものは
それぞれのものだけれど
この箱の中には、確かに重なるところがある。
自己満足に過ぎなかったものが
それを知る媒体になっていることも
目の当たりにして、作った意味は、後から幾重にも重なっていくものなんだと思った。

そんな様子を「mae2」も見守ってくれていたことも嬉しい。
実は、彼女には、未だ渡せていなかった「22+22=44」を届けることも約束して
それぞれと写真を撮った。

男性のお客さまが店内へ。
その様子から「ウニマキ」イベントについては
おそらく知らなくて
「ウニスカ」さんへ来たかった方なのだろうと思う。
手には「AOIKABA舎」さんの消しゴムはんこが捺されたポストカード。
そして「鼠」さんのはんこにも興味を
持たれている。
思わず
「消しゴムはんこが、お好きですか?」と
声をかける。
「はい、そうです、」
返事の声は、想像より少し高くて
かわいらしい感じ。
購入下さったポストカードは
「眼鏡橋」と「チャンポン」。
「お近くの方ですか?」と聞くと
「いえ、台湾からです」と。
ゲストハウスの「ROUTE」さんの紹介で
ウニスカさんへ来て下さったとのこと。
流暢な日本語に、すっかり気を許し
いろいろ聞きたくなるも
まだまだ旅の途中。
このあとの予定もあれるようで
写真をお願いする間もなく見送った。

長崎への地元愛を極めるている方と言っても過言では無い、作家として活躍されている「下妻さん」が、納品へ。
昨年から「ウニマキ」に参加して下さっていて、今回は、前作の続編のような位置付けとのこと。
作家の顔、母の顔、そして手作りが大好きなことも、この1年で知り、佐賀にも2回、来て下さって、毎度、偏愛を共有できることも嬉しい。
「ウニマキ」への出品作品は、全てが手製本。
ご自宅のプリンターも、何度も自身で修理しながら。
出会う前から下妻さんの本を持っていた私にとっては、尊敬する作家さんという存在なのに、気さくにお話して下さることも有り難い。

同じ頃、南島原から来て下さっていた方の手には「11月18日を歩く/下妻みどり」。
長崎の歴史などに興味があるそうで、偶然居合わせた作者を紹介すると、感激され、さらに、私のアカウントもフォローして下さってるとのこと。
3人で写真を撮らせてもらった。

見覚えのある女性だけど、マスクが、曖昧な記憶を、更にぼやかしていく。
「宮田です」
名乗ってくれて納得!
今回の参加者さんで、搬入前日の交流会にも来て下さっていた。
アシスタントをしながら、自身としては、初めての作品を出品して下さっている。
和綴じされた手製本の今回の作品についてなど、お話しながら、差し入れして下さった「南山手プリン」を3人で頂き
「美味しい」と「シアワセ」を共有した。

そして「羊食べる」さんが納品に。
前回から参加して下さっていて、昨年の座談会にも。
今回は、自身を猫ちゃんに見立てて「長崎」での暮らしについて描かれた漫画仕様の作品。
日頃、撮られる写真も好きで、SNSでの発信を楽しみにしている。
宮田さんとは初対面だったので、ご紹介して、長崎や佐世保の話など。

日も暮れてきて、閉店まで1時間ちょっと。
お仕事終わりに来て下さったのは
参加者でもあり、おそらく、今回の作品たちを一番見てくれていて、そして、連れて帰って下さっている吉峯さん。
実は、私の「22+22=44」も購入下さって、読んだ感想をメッセージで送ってくださっていた。
改めて、目の前で、彼女の言葉を受け取れて、嬉しい。
彼女の、ゆったりとしたペースもまた、周りをほっとさせるものがあった。
本日、最後のお客さま。

重なる瞬間を目にしたり
自分もそこに居れる喜びが
今日は、何度も。

店主と、今日と、会期を
ちょっとだけ振り返る。

あまりに濃い1日に
パンクしそうになりながら
お疲れさま、と、また明日!を言って
後にした。

蛍茶屋から電車に乗ろうか迷っていると
「福まん家」の灯りが私を誘う。
実家までの道中で、歩きながら頬張ってしまう。
2ケも。
(良い子は真似しないように、笑)

駆け抜けた1日。
日課の日記を書こうにも
どこも切り取れないし
はしょれない。

お風呂に入って就寝。

目覚めたのは、4時。
こうして
noteに綴り始めた。

8:30
休日のはずの店へ
車で、作品を受け取りに行く。

全作品の動向をリストアップして
把握してくれてたので
在庫の確認もスムーズに。

仕事の相方として2年目。
几帳面なこの人のおかげで
今回も開催出来たんだなと思う。

「このあと、どうなるんだろう?」

「クラスメートが転校するような年度末の感覚」

そう表現した店主は
もう空になった棚を
明日からの「フェア」の作品で
埋めつくすことを思い描いて
寂しさを紛らしていた。

まだだ。
まだ、半分。
長崎会場は終わったけれど
ウニマキのバトンは佐賀へ。

みなさんの個性と思いが詰まった作品たちを
お預かりして、気合いも入りなおす。

家での役割を果たしながら
佐賀、製作室、小部屋ならではの
ウニマキの空間を作る。
また、そこで生まれるものを楽しみに。

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