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㉘Didier Gagleowki(ディディエ・ガグレオフスキ)南仏グラースの香水作家 No.3

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Q. 
グラースでの生活や制作活動を聞かせていただけますか?

A.
グラースは香水の歴史に重要な意味を持つ
世界的なフレグランス製品の一大産地で、

(筆者 補足:グラースは16世紀頃までは、革製品の街として名を馳せてい
        ました。
       アンリ2世の時代に、おかかえの調香師を連れて嫁いできた
       イタリアのカトリーヌ・ド・メディシス妃のおかげで
       革製品独特の匂いを弱め、良い香りのする革手袋が大流行と
       なり、徐々に革製品から香水の街へと変貌を遂げていきま  す。)

南仏の太陽の下、山にも海にも面し、
ミモザ・オレンジ・ジャスミン・ラベンダー・ローズ等
良質な素材にも恵まれた土地です。

香水製造業は世襲制が多いのですが、
私はそのケースではありませんでした。

調香師として開業するにあたっては、
自由に発想し、
制限されることなく制作ができる自分だけの拠点が欲しいと思っていました。

幸運なことに、開店した15年ほど前、グラースは
ヒストリック・センターに新しく起業したい人のための施設を提供していました。
私はこのサポートを利用して、自分の店舗をオープンし、
数年かけて大きくしていきました。

クリエーターとして、私は常に自由(Affranchieアフランシ)でありたいと思っています。
(「Affranchie」は私の香水の名前の一つでもあります。)

つまりコンセプト作り、素材選び、パッケージングをはじめ、
私自身で選び完成させていきたいのです。

また、クリエーターとしての活動の一環として、
私の香水店に隣接するギャラリーで
白黒写真を展示しています。
香りの世界に留まることなく、
空間でも私の世界観を表現したいと思っています。

まさにこの仕事は私の天職です。

どんな職業でもそうだと思いますが、
才能と運のみで道が開けるものではなく、
相応の努力の上に成り立っています。

調香師という仕事はクリエイティブであると同時に
処方に正確さ、忍耐強さを求められる非常に難易度の高い仕事です。

私の生まれ育った環境も大きく寄与しています。
自然に恵まれた田舎で育ち、両親は庭を良く手入れし、
私はそれを傍らで見て育ちました。

祖母はプロの料理人で、私は常にスパイスやハーブの香りに囲まれ、
都会の子供達とは異なる恵まれた環境にいました。

私がこの天職に出会え、思うような道を歩けている素地をもたらしてくれた人達に
今感謝の気持ちでいっぱいです。

私の作品が完成度の高いものであるのみならず、
それを楽しむ人たちに、香りから享受できる「甘美さ」と「好奇心」と、
時には「驚き」をもたらすことを願っています。

私の香水を幸福感に満たされてつけ続けてくれるお客様とのコミュニケーションの中に、
私が制作を続けていく本当の意味を心から感じるとることができます。

「En Chemin 」(道の途中)という私の最新作の香水は、
ラベンダーやローズマリーを使い、グラースの散歩道を連想させますが、
同時に、つける人を、個人的な「内なる心の旅」に誘(いざな)ってくれます。

(筆者 注:この意味ですと、en chemin を「道半ば」「道程」とか「旅の途中」等と訳したほうがよいのかもしれません)

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私にとって、幸せとはとてもシンプルなものです。

家族や友人と一緒に美味しいワインと会話に酔いしれること、
お客様と談笑すること、
春の満開の花々を楽しみ、樹木の下で匂いを堪能すること、
自転車に乗ったり、散策したり、
自然の中で自由に自分の五感を解放させることです。

コロナ禍は、家族と過ごし、庭仕事にいそしむことができるようになり、
むしろ私に時間の余裕を与えてくれました。

私の人生を見つめ直す大きな転機であり、価値観の変化をもたらしたのは、
今のコロナ禍ではなく、数年間の闘病生活でした。
私はその経験を人生最大の素晴らしい贈り物だったととらえています。

(とりあえずのFin)

まだまだDidierには、聞きたいことがたくさん。
また彼とはチャンスをみて会話したいと思っています。


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