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㉛消えゆく街の雑貨達

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考えてみると、これまで、なにかを収集したことはなかったのですが、
私が商品として扱っているものに、コレクターズ・アイテムがいくつかあります。

物自体というより、その店の歴史、関わってきた人物、作り続けてきた匠の技術、
「愛され続けている理由」に、興味があるのかもしれません。

ロンドンに住み始めたころ、
いわゆる「王室御用達」
(英国王室御用達(ロイヤルワラント)とは?至高の品に与えられる称号のお話。 | TECTLI)
の品を「本店の店構え」に置かれた状態で見てみたくて、
本を参考にして、時間を見つけては覗いていました。

お茶のフォトナム・メイソンは、
とりあえずの入門編として、
おのぼりさんよろしく、
ピカデリーサーカス本店のアフタヌーンティーに行ってみました。

ローストビーフはあまり好きではないけど、老舗Rules(ルールス)には日本からのお客様をお連れする際に、ティピカルな雰囲気を味わっていただくためにお連れしたり。

あちらに行ってから知ったJohn Smedley(ジョンスメドレー)
のニットはなめらかで着心地が良く、今でも大切に着ていますし、
(ちゃんとイギリスで作られていた頃の)アクアスキュータムのコートは
170センチ近い私にはデザインも機能性もパーフェクト。Barbourのショートコートは出張に惜しげなく持っていけて大活躍です。

スマイソンの文具置きもだいぶ年季がはいっていますが、
ちゃんと今も作業している手元にあります。

MOLTON BROWN(モルトンブラウン)のハンドソープを使うと、
置いてあったロンドンのゴルフクラブやホテルの記憶がぱっと甦ります。

「愛され続けている理由」は誰もが明確にわかりますよね。

と、同時に、

街のハイストリートの
おばあさんがチクチク縫っている子供服のお店とか、
おもちゃ箱をひっくり返したような手芸用品のお店、
背中のちょっとまがったおじいさんのパイプの老舗等、
見かけたらふらっとよって、話を聞くのが好きでした。

パリは、よく言われるように「職人の街」でもあり、
今ではだいぶ様相がかわってしまいましたが、

マレ地区やモンマルトルの裏通りには
ランプシェード、額、傘、文具、手袋・・・
店内に作業スペースがあり、
店主である職人さんがコツコツ作品を作って売っているようなお店が
沢山ありました。
経営してきた家族の歴史や店の佇まい、
職人さんのよもやま話は、
その土地の歴史を違う角度から知ることのできる興味深いものでした。


こちらの写真は、マレ地区のオルゴール職人のお店。

店内は仕掛けオルゴールや手巻き式オルゴールなどが所狭しと並び、
さながらオルゴール博物館のよう。

残念なことに、後継ぎがおらず、彼の代でこのお店も閉じてしまうだろう、と話していました。

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彼のコレクションの中に、私の大好きなペイネのお人形と
リモージュ焼の頭部に彼が手描きで顔を描いたと言う猫の貴公子を発見し、
「だめだ、だめだ」というのを(笑)
粘って粘って買わせていただきました。

この二つは私の商品の傍らでディスプレイとして登場してくれることもあります。

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モンマルトルのサクレクール寺院前の坂の脇をちょっと歩いたところにドールハウスのお店があって、
下のミニチュアの商品のディスプレイ写真に写っている「MAISON MINIATURE」という
ドールハウスの本を書かれた奥さんと旦那様が経営していました。

仲の良い二人の商品選びの話もとても参考になり、
ドールハウスのパーツなど買付もしていましたが、
残念ながらそのお店も数年前閉じてしまいました。

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確か、ドイツ製の「買い物好きのおばあさんの」人形とか

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エッフェル塔のスノードームではなくて、赤ちゃんのスノードーム!

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これは、熟年カップルのウエディングケーキの飾り。

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マレ地区の老舗の額屋さんのブローチ

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私が買付をしていたお店のほとんどがここ5年で閉じてしまい、
商品も売れてしまっているので、写真しか残っていません。

雑貨は
王室御用達として守られることもなく、
ハイ・ブランドでもアンティークでもなく、
残念ながら、
ほとんどが時代の流れとともに消えていってしまうのでしょう。

私自身も最近はアクセサリーが中心になってしまい、
商品としては扱うことはなくなっています。

ただ、前述の猫の貴公子もそうですが、
時々、ディスプレイとして店頭に配置してはいます。
傍に置くだけで、
商品が、パリのエスプリの魔法の粉でもかかったように魅力的にみえてくるのです。

街角の職人さんが、愛情をこめて作った作品というのは、
ゼペット爺さんが作ったピノッキオがいつしか本当の子供に変わってしまったように
見る人や手に取る人に伝わる息吹があると思うのです。

赤・黒・白・金の配色が特徴的なアールデコ・デザインのアクセサリーには
アールデコの金のオブジェ
ナポレオン3世時代のアンティークにはその時代のものとひと目でわかるリボンの写真立、
バランスを考えながらディスプレイを試みます。

作り手の思いをできるだけ正確に伝えるために
背景の知識をいれることを怠らないこと、
紹介役としての自分に課していることの一つです。

エシカルを、
「買い手良し、売り手良し、世間良し」の近江商人哲学に
「作り手良し、未来良し」を加えて説明した人がいますが、
なんとなく勢いだけで進んできたように思っていた自分の仕事にも
根幹にそのコンセプトがしっかりあったことに気が付き
勇気づけられました。

消えていくものの大きな流れは変えることができなくても、
精魂込めて作られた作品とその制作者に出会える喜び、と

作品を気に入ってくださったお客様に
長く大切に使ってもらえるような紹介役でありたいという思いが、
今の私のエネルギー源になっています。

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