それでもすべての現場は動いてる

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あまりに短いタームで状況が動いていく。TLに「公演中止」の文字が出るたびに胸がギュッと締め付けられる。作品に深くかかわっていない人間がツラいのだから、プレイヤーやスタッフ…実際に現場にいる人たちは身を引き裂かれる思いだろう。

これはわたしの体感を基にした「記録」
多分、とても長くなる。

2月23日(日)に下北沢の本屋B&Bで、現代演劇ウォッチャーの高野しのぶさんとトークイベントをやらせてもらった。

ボロボロ…号泣からのトークイベント

少なくとも2人で最後の打ち合わせをした2月18日(火)午後の時点で、世にイベント中止という空気はなかったし、お店からも「もしかしたら」的な話は一切出なかった。

その2日後、2月20日(木)頃から世間の空気が少しずつ動いていく。

この頃まで、わたしも含めた多くの人たちにとって、あのウィルスはまだどこか「対岸の火事」モードだったと思う。連日、横浜に停泊していた「ダイヤモンドプリンセス号」の報道がなされ、火は見えるところにあるけれど、それが自分の家に燃え移るかも…という強い感覚は多くの人が持っていなかったはずだ。

厚生労働省が2月20日に出したイベント等開催の指針(からの抜粋)。

イベント等の開催については、現時点で政府として一律の自粛要請を行うものではありません

高野さんともメールでやり取りをし、チケットを買ってくださったお客さまにはSNS等で「お店にはアルコール消毒スプレーを用意」「咳エチケットのご協力をお願いします」との旨をお伝えした上でイベントは開催。当日のキャンセルもほぼなく、予定より少し多い70名弱の皆さまにご来場いただいた中、トークは終了。

3連休明けの2月25日(火)

昼前の時点で公演中止のアナウンスは非常に少なく、来日公演がいくつか取りやめになったり、パリ・オペラ座バレエ団から「公演は予定通り行うが、出演者の入り・出待ちは不可。バレエダンサーたちはサインもできない」と注意喚起がなされていたレベル。

そんな中、東京グローブ座で上演中だった『〇〇な人の末路~僕たちの選んだ××な選択~』が2月28日(金)~3月8日(日)までの12ステージを中止すると発表。

が、この頃の自分のツイートを見返すと、まだどこかのんきモードで、差し迫った様子があまり感じられない。そういえば、昨年10月の台風の時も最初に公演中止を決定したのはグローブ座だった…さすが、ジャニーズは危機管理に対して敏感だな…くらいのテンションである。

事態が一気に動いたのは2月26日(水)だ。

安倍総理大臣からの

政府といたしましては、この1、2週間が感染拡大防止に極めて重要であることを踏まえ、多数の方が集まるような全国的なスポーツ、文化イベント等については、大規模な感染リスクがあることを勘案し、今後2週間は、中止、延期又は規模縮小等の対応を要請することといたします。

との「要請」を受け、演劇を含めたライブパフォーマンス関連の主催者は怒涛の対応を迫られる。

この日、わたしが最初に目にした大手主催のリリースは劇団四季。四季は26日の夕方に翌・27日(木)から3月8日(日)までの専用・準専用劇場での全公演と全国公演の一部中止を発表(のちに、北海道での『リトルマーメイド』は3月15日(日)千穐楽まで中止と追記)。

同じく26日中に公演の一部中止を発表したのは赤坂ACTシアターで『偽義経冥界歌』を上演中の劇団☆新感線。2月28日(金)から3月10日(火)までの休演をアナウンスした。

出演俳優やクリエイターの所属事務所がそれぞれ異なる演劇やミュージカルの場合、公演中止か続行かの意思決定に時間がかかるのは当然のこと。そんな事情もあり、26日時点で多くの大手主催は「現時点で公演は行う予定だが、事情により来場できない購入者にはチケット代金を払い戻す」という対応を発表したと記憶している。

2月27日(木)になると、東宝、梅田芸術劇場、ホリプロ、松竹などの大手主催公演が3月10日(火)前後まで中止になると続々と発表される。また、新国立劇場、東京芸術劇場、世田谷PT等の公共劇場や、シアターコクーン、ステージアラウンド東京等の上演作品も一部(もしくは全公演)中止に。

公演途中で上演中止
・『天保十二年のシェイクスピア』
・『泣くロミオと怒るジュリエット』
・『ウエスト・サイド・ストーリーS2』
・『ねじまき鳥クロニクル』
・『Hundred Days』
・『八つ墓村』など

公演の一部期間休止
・『〇〇な人の末路~僕たちの選んだ××な選択~』
・『偽義経冥界歌』
・『Endless SHOCK』
・『VOICARIONⅦ』
・劇団四季上演作品 など

開幕を遅らせると発表
・『アナスタシア』
・『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド ~汚れなき瞳~』
・『星の大地に降る涙』
・『十二夜』など

全日程中止
・『お勢、断行』
・『お化けの進くん』
・『RENT』(来日公演)など

※上記はこの期間、東京での上演(もしくは上演予定)の一部作品。あくまで筆者の覚書であり、すべてをピックアップした情報ではない※

この日、続々とリリースされる公演中止、もしくは休演のお知らせに気分がどんどん落ち込んでいく。誰かと会ってこの想いを共有したい。「大丈夫」と笑いあいたいと強く思う。

さらに2月28日(金)には宝塚歌劇団が2月29日(土)~3月8日(日)までの公演を休止すると発表。また、2月29日(土)には吉本興業が3月2日(月)から当面の間、全ての公演を中止又は延期することを決定。

上記のように公演中止、休演を発表する主催や劇団も多い中、客席数が少ない劇場での公演は比較的予定通りに行われていた印象。

公演続行を決めたカンパニーの指針となったのが、「青年団」平田オリザ氏が2月20日(木)に他に先駆けて出した[青年団公演について]のアナウンスではないだろうか。

俳優の体調や上演作品のテイスト、場内の状況等を細かく、そしてわかりやすくリリースしたこの文章を、26日以降の上演続行を決めた多くのカンパニーが拠り所としていると感じた(劇団によっては一部HP等に抜粋しているところも)。

また、下北沢の本多劇場グループの劇場での各公演は、確認した範囲では予定通り上演されている。

ただ、本多劇場グループでの上演作品にかかわらず、中・小劇場で公演を行うカンパニーの多くは「できる限り感染予防対策をしつつ公演は続行するが、来場が叶わない人には返金する」対応をとっており、これは本当に厳しい事態だとも思う。大手が公演を休止、もしくは中止を発表する中、中・小劇場作品のチケットを購入している人たちの観劇モチベーションも低下し、キャンセルに繋がる可能性もあるし、この状況では当日券を求めて劇場に足を運ぶ人も通常より少なくなるはずだからだ。

公演続行を決めたカンパニーのツイート等を読んでいると「劇場に来てほしいと自分たちが大声で言える状況ではない。でも、お客さんが入らないと、今後の存続が危ぶまれる」という叫びが液晶を越えて聞こえてくるようだった…ツラい。

3月1日(日)には東京芸術劇場・芸術監督の野田秀樹氏が[公演中止で本当に良いのか]との意見書を野田地図のHPに掲載。平田オリザ氏をはじめ、多くの演劇人が賛同の意を表している。

演劇ライターとしてのわたしは、26日以降、毎日TVやWebから流れるニュースで暗い気持ちに覆われ、新しい取材や記事の企画を考えるモードに頭をシフトできていなかった。そんな中、某編集部からの依頼で、2月28日(金)、緑が深くなるころに上演される舞台の取材をしに都内スタジオへと向かう。

対象者は1年2か月ぶりにお話を伺うXさんと俳優のZさん(イニシャルはお名前と関連性なし)。

スタジオではマスクをつけているスタッフが目立つものの、いつも通りの笑いが起き、いつも通りにインタビューや撮影が行われ、いつも通りにちょっとした情報交換があり、いつも通りに押し巻きがあって…とにかく「いつも通り」の時間が流れていく。

Xさんは「これで取れ高大丈夫?もっと喋れるよ!」とセッティング時間にあらためて椅子に座ってくれて、はじめましてのZさんも楽しいトークで取材の場を盛り上げてくれた。

帰り道
高校生の頃、夢を追って通った代々木八幡の商店街を抜け、駅に向かいながら、現場が普通に動いていることのありがたさと嬉しさとをあらためて噛みしめる。

ああ、また”演劇”に助けてもらった…と思いながら。

公演を中止にした団体に加え
未だ休止中の舞台もたくさんあるし
初日が遅れる作品もあり
上演を続けるカンパニーもある

この時期に公演を続行することに対してネガティブな意見を持つ人もいるだろう。

でも、少なくとも
どんな選択にしろ、身を切るような”決断”をした人たちを責めたり、自分と違う意見や考え方の人を頭から否定して、心無い言葉をぶつけることがないよう、この状況を見つめていきたい。

それが舞台上にしろ、オフステージにしろ
今日もすべての「現場」は動いてる。

1日も早くすべての劇場にまた灯りがともることを祈りつつ。


2020.3.1 yukko






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