62.未来への扉を唐突に設置する
熱海サンビーチの真ん中に青空が描かれたドアを設置した。
第一回熱海未来音楽祭でのパフォーマンスをするためだ。
以前、JAZZ ART せんがわでは、3人しか入れない移動式のクラブジャズ屏風というものを考え、空間デザインの長峰麻貴さんに製作してもらった。
同じような考えで、今回は扉で行こうと長峰さんと計画した。
異世界への入口を最小の装置で実現しようという試みである。
製作協力を熱海海岸近くにアトリエを置く戸井田さんにお願いして、設置にはマリーナの管理をしている光村さんの協力を得た。
しかし、ビーチの設置には市の許可が必要だ。どうもビーチは県の管理であることが、夏の間管理を請け負っている市の公園緑地課に行ってわかり、県の土木課に許可を取りに行った。
ここでは詳しく書かないが、1時間にわたる話し合いで、どうにか許可を取ることができた。
熱海は坂の街である。熱海駅からビーチまでは、3キロほどの急な下り坂。その間に昭和レトロな建物やお店、旅館などが、そこかしこに現れる。こんな楽しいロケーションはあまりない。駅前の仲見世商店街の協力を得て、パレードした。タイトルは「熱海の国のアリス」。数週間前に、アリスに扮装するための紙製の帽子作りワークショップをして、思い思いの帽子を被った大人やこどもが30人ほど集まった。音楽担当は、ジンタらムータでお馴染の大熊ワタルとみわぞうのお二人である。彼らは本職のチンドンでもあるので、商店街や街頭での人を巻き込む演奏はおてのものである。フライヤーにはこう書いた。
熱海は謎めいている
海と山が急勾配に隣接し
地中海のような景観に
昭和に咲いた「観光」の遺跡がある
ここに未来への扉を唐突に設置する
そこから楽団が時間をワープして登場する
駅前から仲見世通り商店街を下り
熱海銀座を通りお宮の松からサンビーチへ
浜辺の扉から音楽が海を振動させる
熱海未来音楽祭のはじまりである
これはおおむねイメージ通りのことができた。商店街からずっと下っていくのだけど、商店街の人たちがみんな店頭に出て、応援してくれた。熱海銀座に到達する頃には、30人どころかもっともっと長い行列になっていた。そしてようやくビーチに到着。こどもたちが我先にと扉の所に走っていく。扉にはビーチの砂を掘って設置している時に名前をつけた。ラビリンスドア ! 寺山修司の映画『迷宮譚』からの命名である。
ぼくはまずはじっくり扉と海をみてもらおうと思い、一度階段のところまで、参加者に下がってもらった。
「みんな少し静かにして、ドアを眺めていてください」
そうするとドアがタブローと認識され、波がやってきた。
12時! 熱海市の広報のチャイムがスピーカーから鳴った。まるで『熱海の国のアリス』の開演ベルのように。すると7羽の鳩がドアに向かって飛び立った。
ゆっくりと伊藤千枝子さんがダンスをしながらドアに近づいていく。
ふたりのウサギが握手して、佐藤正治がソロでパーカッションを鳴らす。
さらにふたりの女性が遠巻きに歩き、伊藤さんの先導でこどもたちがついてくる。くるくるくるとドアの周りをパレードしてパレードは終わった。
一週間前まで、JAZZ ART せんがわしていたので、満足な準備ができなかったが、予想以上の成果をあげることが出来たのは奇跡のようだ、天気予報ではずっと雨だったのに、暑すぎないいい天気にも恵まれた。
夜はジム・オルークたちとのコンサートが控えている。
巻上公一 2019年9月21日