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映画「アリゾナ・ドリーム」感想/どんな不幸や不運に見舞われても

「アリゾナ・ドリーム」は「アンダーグラウンド」で有名なエミール・クストリッツア監督の作品。出演こそジョニーデップ、フェイ・ダナウェイ、ヴィンセント・ギャロと華やかなものの、残念ながら「誰もが知る名作」ではない。
それもそのはず、話がとてもわかりづらい。冒頭では主人公が繰り返し夢をみるイヌイット家族の日常が描かれ、そこから舞台はニューヨークへと移り、主人公は叔父の結婚式のため、アリゾナに向かう。

その後描かれているのは何だろう?ビジネスが傾き始めたキャデラックのディーラー、俳優を夢見ているけれど報われないセールスマン、精神に問題を抱えた中年女性、自殺願望のある娘、そして主人公のジョニー・デップ演じる所在なさげな男性。そんな登場人物達が、オーディションに挑戦したり(お話にならない)、手作り飛行機で空を飛ぼうとしたり(上手く行かない)、恋をする(砕け散る)。

劇中で起こるエピソードは大層暗い。忠実に映画内で起きた出来事をただ羅列したのであれば、この映画は「救いようのない映画」という事になる。

ただ実際はそうじゃない。起きるエピソードには救いがない、だけど、そんな中でも登場人物たちは楽しそうなのだ。

2020年4月、コロナの影響を受け、私にとっては保育園閉鎖による子を見ながらの在宅勤務となり、精神的にも肉体的にもきつかった。そもそも今年に入ってから、行くはずだった旅行には行けなくなり、趣味の食べ歩きにも行けず、ストレスがない訳がない。この数ヶ月は今までの人生を通して一番ストレスフルな時期だとすら思う。

ただそんな中にも、楽しい時間が着実にある。名店のテイクアウト、どれがいいかと彼と吟味して舌鼓を打つこと、子と昼間に向かう公園、はしゃぐ子の笑顔を浴びるように眺めること。よく考えると、パートナーと子と、こんな長い時間一緒に過ごす事は、きっと、もう二度とない。だからこの日々をいつか、私はきっと、懐かしむ。

そう、どんな不運や不幸にみまわれようとも、その中にも幸せはある。「アリゾナ・ドリーム」をみると、それをつくづく思う。この映画を好きな理由は、そこにある。

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