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2019/5/18 それらはすべてここにある

週末、江國香織の「泣く大人」というエッセイを読んだ。学生の頃に繰り返し読んだ作品。オーケストラの発表会という一大行事が終わってすごく疲れていたから、自己啓発系の本とか教養を高める本とか、そういう頭を使う本を読みたくなかった。それで、気軽な気持ちで読める本、ということで、ここ最近開けることのなかった本棚からピックアップ。

読み進んですぐはっとした。私はこういう文章が読みたいし書きたいのだなあと思い出したから。日々の何気ないこと(たとえば深夜にお風呂で読書をするのがいかに気持ちいいかとかそういうこと)が作者の感性で魅力的に描かれている、そんな文章が。

そういえばオーケストラで次に弾きたい曲のアンケートがあって、まっさきに思い浮かんだのがドヴォルザークの弦楽セレナーデという曲だ。これは私が中学生の時にきいていた衛星ラジオ「セント・ギガ」の無料放送で波の音とリミックスされよくかかっていた曲。初めて聞いてから20年以上たっているのに、この曲がすぐに思い浮かぶなんて。

ここ数日色々な縁があって、自分の今までと、そしてこれからをぼうと棚卸しして気がついた。私は、私のこれからの人生を楽しむために必要なものがもうすっかり手元にある。映画や音楽や本といったコンテンツ、そして人間関係ですらも。だからこれからは、私は自分の「手持ち」を極力大切にして生きていきたいなと思っている。

そんな今の気持ちにふさわしいのは立原道造のこの詩。

夢みたものは・・・  /  立原道造

夢見たものは ひとつの幸福

ねがつたものは ひとつの愛

山なみのあちらにも しづかな村がある 

明るい日曜日の 青い空がある

日傘をさした 田舎の娘らが 

着かざつて 唄をうたつてゐる

大きなまるい輪をかいて

田舎の娘らが 踊りををどつてゐる

告げて うたつてゐるのは 

青い翼の一羽の 小鳥

低い枝で うたつてゐる

夢見たものは ひとつの愛

ねがつたものは ひとつの幸福

それらはすべてここに ある と

これも私の「手持ち」の詩。自分が見聞きしてきたもの思い返すと本当に世の中は素敵なもので溢れていて、それだけで何だかとても幸せな気分になれるのだ。

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