くるり

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Perch.のお手紙 #138

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シン、と音の鳴りそうな夜のキッチンで、白ばい貝を目の前にしばしぼんやりとした。


コロナ禍でケータリングのお仕事がぐっと減った3年前。お料理の修行をちゃんとしたことがないことは、長年のコンプレックスだった。


ケータリングの注文が鳴り止まなかった季節、私の自信は「空元気」ならぬ「空自信」だったんじゃないだろうか、と思う。誰かの評価で支えられるような自信ではなく、自分が信じられる本物の自信をつけなければ、と思った。


「まきちゃん、魚始めたら?」地元の信頼するシェフがある日言って、そうして始めたのが3年前のお魚のお勉強でした。ご贔屓にしているお魚屋さんを紹介して頂いて、1年間はとにかく勧められたものを何でも買うよう言われました。


朝のうちに魚屋さんに出かけて、おすすめのお魚を買い、1日仕事をして帰ってきたキッチンで夜な夜な格闘をした。


教えてもらった捌き方、教えてもらった調理法、ネットで調べて動画を見たり、知り合いのシェフ達に質問をしたり。捌いて、味見をして、その日に食べる分を調理をして、残りは時間経過を見るために、熟成させたり、お酢や昆布でしめたり、乾かしたり。


今週日曜日、その日の朝に仕入れたものをお知らせしてくれるお魚屋さんのショートメールが、珍しく夕方に届いた。長期病気療養のため今週いっぱいで一旦お休みをすることになりました、と。


最後のお魚屋さんで買った白ばい貝も、初めての食材。こうやって初めてのお魚たちに困りながら勉強をした、たくさんの夜を思い出した。


昨日、対馬から届いた天然のお魚を使っての大掛かりなケータリングがありました。前日に届いた3種類のお魚を使って、6種類のお料理を、合計30名のお客様に味わって頂く会。とても緊張をしたけれども、自信を持ってお届けすることができました。


お魚屋さんに、何のお魚をどんな風にお料理したのか、聞いて欲しかった。

煮付けた白ばい貝をくるりと貝から出した。