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Vision Quest-1 お茶の水女子大学「未来起点ゼミ」編

 今回は今年に入って私が実施しているビジョンクエストワークショップについて書きたいと思います。
 ベースとなる考え方は私が昨年企画・運営したお茶の水女子大学の「未来起点ゼミ」という授業を企画する際に着想しました。
 着想と書きましたが実は「21世紀学び研究所」の熊平美香さんがおっしゃっていた言葉「未来=願い×実現する力」を熊平さんのご理解を得て使わせていただいています。またワークはピーターセンゲ氏のビジョン探求ワークとタイムラインのワークを組み合わせて設計しています。
 第1回めはその経緯とお茶の水女子大学での取組を、第2回めに今年になってやり始めた90分のVision Questワークショップと個別セッションについて書かせていただきます。
 2017年に弊社(株)ブリヂストンとお茶の水女子大学は女性リーダー育成を目的に連携協定を結び様々なイベントを一緒にやってきました。私は連携プロジェクトのプロジェクトリーダーをやらせていただいたのですが、そのプロセスの中で大学生の皆さん、附属高校生の皆さんのパワーと魅力に魅了され、この力をぜひプロジェクトに活用させていただきたいと思うようになりました。学生の皆さんに力を発揮していただくには「授業」を持つことが一番良いだろうと考え、お茶大の先生方や弊社メンバー、上司にご協力をいただき、2019年にブリヂストン、お茶の水女子大学連携授業「未来起点ゼミ」を開講することとなりました。
 私は2018年7月よりプロジェクト専任となりお茶の水女子大学に出向、客員准教授として「未来起点ゼミ」の準備を始めました。
 「未来起点ゼミ」は「現在の延長線上の未来ではなく、理想の未来からバックキャスティングして現在何をするか考えてみよう」という考え方をお茶の水女子大学の副学長が着想して名前をつけていただきました。
 この考え方に弊社メンバーも共感してとてもワクワクしたのですが、いざ授業を設計する段階になるとはてどうしたものか、雲をつかむような状況でした。
 当時私はオーセンティックワークス社主催のビジョンインテグレーションアプローチの講座に通ったり、メンターの一人である清水広久さんのレジリエンスマスター養成講座でチェインプロセス(タイムライン)等の未来を描きだすワークをやっていましたので、未来からのアウトカムをリソースにするイメージはできていたのですが、具体的な授業の設計にまで落とし込むことができません。
 そんなときであったのが「未来教育会議」の資料です。
https://miraikk.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/12/60cf28123602201ffa0d325ea44a3262-1.pdf
 この資料の最後に載っている「2030年の社会・教育未来シナリオ」は私のイメージする2030年の「未来起点ゼミ」のアウトカムに非常に近いものでした。そこで未来教育会議実行委員会代表の熊平さんが主宰するセミナーに参加、名刺交換し「未来起点ゼミの相談に乗ってください」と熊平さんの事務所に押しかけたのです。とにかく何か手掛かりがないかと必死でした。
 熊平さんのセミナーに参加して一番心に響いたのが冒頭の「未来=願い×実現する力」でした。 
 「あなたの望む未来は何なのか?一人ひとりの望む未来が統合された形が未来に立ち上がる。それを実現する力はもう持っている。その力を掘り起こせばいいんだ。」という文脈がどっと心に押し寄せてきたのを今でも覚えています。この文脈をこの「未来起点ゼミ」の授業の構造の軸にしようと決めた瞬間でした。
 熊平さんにご了承いただいて、前期は「自分の願い・自分が望む未来」を探求することを中心に、後期は「自分の願いをどの様に実現するか」を中心に授業を設計しました。
 特に前期の「自分の願い・自分が望む未来」にアプローチするワークは色々考えました。2019年1月より福谷彰鴻さんが主宰する「学習する学校」(ピーターセンゲ他著)のABDに参加し始めたのですが、その中でやった「ビジョン探求」のワークがまさに「自分の願い、自分が望む未来」を探求するワークだと感じて、タイムラインとビジョン探求を組み合わせたワークを「未来起点ゼミ」の授業に取り入れることにしました。
 まずタイムラインで明確に自分の未来像を描きアソシエートした上でビジョン探求の「それはあなたに何をもたらしますか」という問いを投げかけます。これはとてもパワフルな問いでした。具体的に描いた未来の更にその先の本当に望んでいることをぐっと引き寄せる問いです。
 ただ授業で1回やっただけで「自分の願い・自分が望む未来」が明確になる学生はほとんどいませんでした。そもそもこの様な「正解のない問い」をかけられたことがない学生も多く、後で聞くと「真紀さんは正解を知っていて、それを答えなければ単位が取れないと思っていた。」という学生もいました(笑)。
 そこで授業だけでなく自主勉強会や個別セッションの際にもこのワークをやりつづけました。
 中には個別セッション1回で「これだ」という「願い」にたどり着ける学生もいましたが、何度やってもたどり着かない学生も多くいました。
 「力のない自分はこんなことを願ってはいけない」「自分は悪い/劣った人間だから幸せになってはいけない」「周囲の期待に応えなくてはいけない」「親に恩返ししなくてはいけない」「自分の本当の力を知るのが怖い」「私はもっと人に大切にされるべきだ」「自分の感情を表現してはいけない」といった様々なビリーフ(メンタルモデル、エッジ、シャドウ)が邪魔をしていつまでもぐるぐる同じところを回り続けるのです。
 「それはあなたに何をもたらしますか」という問いを繰り返しているだけなのですが「願い」がするっとでてくることもあれば「願い」ではなく「ビリーフ」がくっきり浮き上がってくることもあるのです。そして「願い」は自覚できますが「ビリーフ」はこのワークでは自覚できません。
 実は授業の中でビリーフを取り扱うワークをすることも考えました。真のリーダーになるためには自分のビリーフを自分で意識し、選択する力が必要と感じているからです。ただ私には授業の場でそれをやる力も勇気もありませんでした。
 そこで「願い」が出てこない場合は、浮き上がったビリーフを癒す言葉をかけることにしていました。例えば「あなたは幸せを感じていいのよ」「まずあなた自身があなたの感情を大切にしてあげてね」のように・・・。
 何回か探求するうちに学生は「実は私、〇〇がしたかったんです」と言えるようになりました。その時の学生の晴れ晴れとした顔は今でも忘れません。 
 びっくりしたのは「願い」が明確になり、具体的になると、なぜか必要な情報が集まり、協力してくれる人が現れ、物事が進んでいくことです。今まで調べても出てこなかったような情報が、どんどん入ってきます。これを「引き寄せ」というのでしょうか、桁違いに生産的で創造的になります。
「未来を切り拓く」のではなく「未来の方から近づいてくる」感じがしました。
 ある学生は自分が作りたい「古民家村」の絵を一晩で描き上げて持ってきました。
 またある学生は「適当に楽な会社に就職しようと思っていたのに今はテーマパークを創りたいという大きな夢に向かっています」と言ってくれました。
 最終発表の直前に「実は小説家になりたいんです」と告白して急遽今まで書き溜めた短編を発表してくれた学生もいました。
 最終発表で母親に自分のもやもやした不安を投げかけ、寄り添い対話することを提案した高校生の発表を聞いて、参加者の皆さんが涙しました。
 この体験を通して学生は「自分の個人的な『願い』を実現することが社会に対して影響を与えることができるかもしれない」と感じたと思います。これはとても貴重な経験です。
 一方でテーマとしては良いのですが、あまり探求が進まなかった学生もいました。恐らく自分の「本当の願い」にたどり着くことができなかったのだと思います。教員として申し訳ない気持ちでいっぱいですが、1年で探求を終わらせなくてはいけない理由はありません。探求に必要な問いは1年間ずっとかけ続けましたので、学生の皆さんの中でその問いがぐるぐるまわりつづけ、いつか「自分の本当の願い」に気づくよう心から祈っています。

 1年間を通して私は学生たちに「あなたはどんな世界、どんな社会でどの様に生きたいと 思っているのか。それはなぜか」「あなたと最も強く繋がっている、大切な人、物、事を最も大切にするために、あなたは何をするのか。」と問い続けました。そしてその経験を通して私は「人は自分の願いにつながると最も力を発揮し、生産的で創造的になる。だから自分の願いに繋がることはサステナブルな社会の実現のためにとても重要なんだ」という信念を持つことができました。
 この3月にお茶大を退任し、4月からは(株)ブリヂストンでの仕事に戻っていますが、この信念と経験が今やっている「Vision Quest ワークショップ」に繋がっています。
 長くなりましたのでその話は次回させていただきます。
https://note.com/maki_masu/n/ncac5dde71e93

 ※「未来起点ゼミ」最終発表の様子を弊社広報が取材してくれた記事がありますので、詳細は下記参照ください。
https://www.bridgestone.co.jp/blog/2020021801.html
 ※お茶大「未来起点ゼミ」での取組をライフワークス様に取材していただきました。下記参照ください。
https://www.lifeworks.co.jp/rc/individual/entry001702.html



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