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大統領

 トランプ大統領がようやく引っ込んだと思ったら、プーチン大統領が世界を引っかき回しています。大統領とは民主国家の指導者のはずですが、この頃ほとんど独裁者と言っていい大統領が続いて現れています。

 ところでプレジデントを大統領と訳すのは不適切だと言われています。「統」も「領」も支配し権力をふるう意味ですが、プレジデントという言葉にはそういう意味は含まれていないのです。プレジデントは主催者というほどの意味。会社の社長もプレジデント、会議の議長もプレジデント、美術館などの館長もプレジデントですね。

 ジョージ・ワシントンはアメリカ独立戦争の植民地軍の司令官でしたが、独立を達成したアメリカの初代の国家指導者に選ばれた時、権力者や支配者の意味を持たないこのプレジデントと言う言葉を、自分の役職を表す言葉として選んだということです。

 古代ローマ。共和制の時代、元老院から選出されて国を指導するコンスルという役職がありました。これを統領と訳します(執政官という訳もありますが)。任期は二年で、二人ずつ選出されました。戦争などの国家の危機の時には、より権限の強いディクタトールという臨時の指導者が単独で指名されました。のちに独裁者を意味するようになった言葉です。ユリウス・カエサルは対外戦争で多くの勝利をおさめ、終身のディクタトールの地位についたのですが、共和制の伝統を乱す恐れがあるとして暗殺されたのでした。
 ユリウスの甥で養子のアウグスティヌスは、共和制末期の混乱をおさめて国家の指導者となったとき、「自分はただのカエサルである」と言い、ローマの第一市民と言う呼び名だけを受け入れました。だから彼をローマ初代皇帝と呼ぶのは少しおかしいのです。皇帝とは中国の独裁的支配者を呼ぶ言葉です。
 しかしやがて彼の後継者は、華麗な衣装をつけ、神の代理人として君臨する独裁者となりました。それでカエサルが皇帝と訳されるようになったのです。

 その後のヨーロッパでは、ドイツ皇帝はカイゼル、ロシア皇帝はツァーリと言いますが、語源はカエサルです。ところで皇帝をエンペラーと呼ぶこともありますが、これはローマ軍の司令官を呼ぶインペラトールから出た語です。
 フランス革命からヨーロッパ全土に広がった戦乱の中、軍人として頭角をあらわしたナポレオンは、まず統領(コンスル)に選ばれ、その後終身統領になり、ついには皇帝にまでなったのでした。彼の場合はエンペラーとよばれました。

 だから大統領という訳語は、民主主義国家の指導者としてはふさわしくないと言われるのですが、書記長とか総書記とか名乗っていた独裁者もいましたね。
 このごろ会社の代表をプレジデントとは言わず、C.E.O.(最高経営責任者)などと言っているようです。プレジデントの印象が悪くなったからでしょうか。

 

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