あの日の僕(第2話)━跡

あの日の僕(第2話)━跡

僕は想像するのが好きだ。
いつからそうなったのだろう?と記憶をゆっくりと遡ってみた。

僕は先天性の病気を持って生まれ、生後3日で手術をしたり、12歳の誕生日まで通院していたけれど、両親に特別扱いとかはなく、ごくごく普通に育てられた。たまに検診の為に病院に行って、注射とかはするけど、みんなもそういう事をてっきりしているとさえ思っていた。成長して、そういう経験はなかなかみんなしていないと知って驚いた。

お腹に大きな手術跡はあった。物心つく前からそれはそこにあったから、嫌とかあまり思った事もない。これがない体を知らないというのもあるけど、きっと両親が僕を普通に育ててくれたのも大きかったと思う。一度、小さい頃この跡についておかんに聞いた事がある。

「なんで僕のお腹にはこういう跡があるの?みんなにはないのに」
そしたら
「昔手術したからや。うまくいったからいいやん」と言われた。
僕は能天気に
「そっか!確かに!うまくいったからいいか!」
とそれっきり両親にこの跡について聞く事はなかった。本当に気にしていなかった。それは今も。別に見せびらかしたいとかはないけど、隠したいとも思わない。自分の体の一部であり、人生で一番最初に困難と闘った勲章とすら思っている、は言い過ぎかな。とにかく、ちっとも気にしていない。一日の間に、この跡や病気について考える時間なんてほぼない。唯一あるとしたら体を洗う時かも。

この僕の病気は様々な合併症があるらしく、ずっと検診をしていた。当時、体調不良にたまに陥るが、検査を繰り返しても原因はわからなかった。

原因がよくわかっていなかったので、勿論薬もない。ただただ寝て体調が戻るのを待つしかなかった。さすがに不安になるが、次第にそれも慣れてしまって、またしても「まあいいか」といつの間にか思ってしまう様になった。

これはこの病気を持って生まれてよかったと思う1つでもある。僕は、努力して抗えるものはいいが、どうやっても自分の力では覆されないものは「まあいいか」と言ってしまい、一度自分から解離させる方法を編み出した。

そんな能天気な僕でも、不安は不安だった。
「一体いつまでこの検診は続くのだろう?」
「大人になれるのだろうか?」
「この体調不良はずっと続くのだろうか?」

しかし、そのどれも答えが良くない様に思え、大人にはとてもじゃないが聞けなかった。

普段は考えないけど、体調悪くなって、ただただ寝るしか出来ず、天井を見ている時に脳裏に浮かんでしまって嫌だった。

必死に他の事で頭の中を埋めて、嫌な考えを追い出そうとした。だから僕は想像するのが好きになったのかもしれない。無力な僕の、精一杯の抵抗だった。本もよく読んだ。本の中や想像の中では僕は自由だった。空も飛べるし、どんな所にも行ける。けど、まさか大人になって海に自由に潜られるようになるとは全くわからなかった。

それに、大人になった自分はちっともイメージ出来なかった。だから「将来の夢」がはっきりと持てなかったし、持たなかった。大人になれると思う材料が乏しかった。

そんな中、僕はあの日を迎えた。



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