あの日の僕(第12話)━トロロコンブ

あの日の僕(第12話)━トロロコンブ

久しぶりにとろろ昆布を食べた。おいしかった。昔よくばあちゃんと食べていた記憶が甦った。

昔、何を食べてたかな?僕の家にはばあちゃんもいた。じいちゃんは僕が5才位の時に亡くなってしまったけど、学生時代までばあちゃんと暮らした。ばあちゃんはめちゃくちゃ優しい人。怒られた記憶がない。全く覚えてないけど、兄ちゃんと一緒になってプラスチックの刀で遊んでたたいたりもした時も怒らなかったみたい。じいちゃんもだけどばあちゃんも僕たち孫に対してとにかく甘かった。両親が共働きであった事もあり、ばあちゃんと過ごした時間は長かった。一緒に時代劇も沢山観た。遠山の金さん、水戸黄門、暴れんぼう将軍、銭形平次、当時は面白い時代劇がわんさかあった。今もあるのかな?毎回僕はワクワクハラハラ見ていた。

「思い出の味は何か?」
と聞かれたら真っ先に思い浮かぶのが僕はばあちゃんの作った「たまごかけご飯」だ。僕はばあちゃんの作るたまごかけご飯が大好きだった。僕が作るより数倍うまい。大人になってからその秘訣を聞いたけど、ばあちゃんの味を越えるのは難しい。あとはお茶漬け、漬物、塩昆布。じいちゃんがいた時は明太子も好きでよく食べていた。それらは今も好きなのは、食べるとこのとびっきり幸せな時間が思い出せるからもあると思う。匂いや音楽でも脳の奥底に眠っていた記憶が再生されるけど、僕は味でも思い出す。だから記憶って脳にだけではなく舌や鼻や耳などにも残ると本気で思っている。

永遠なんてないのに、永遠があると信じて疑わなかった日々。100%以上の愛情を注がれていた自信がある時間。このばあちゃんの孫で心から良かったと言えるし、この家族で良かった。こんな色々不完全な僕を受け入れてくれていたし、心の休まる場所を作ってくれていた。その頃は幸せだと毎日思っていなかったかもしれない。ただ毎日があっという間に終わってはまた朝が来ていた。

僕には幼なじみがいた。
もういないけど。

懐かしい味にくっついている断片的な記憶は、今とつい無意識に比べてしまう時がある。
 
あの時出来た事ってあるはずだと、何度も悔やんできた。もう20年も前になる。ふっきれてはいるし、前も向いている。だからこそ、ないより今ある幸せに目を向けたい。今ある幸せに感謝をしていたい。今のこの普通は特別だと忘れたくない。

努力や自分の行動できりひらける運命と、なすすべもない事があるとあの時おもい知らされた。何も出来ないものは運命と受け入れるしかない。だからこそ僕は自分次第できりひらける運命は頑張りたい。この人生を炎の様に熱く生きて燃え尽きたい。勿論長生きする予定。

生きていたらしんどい事ってある。

楽しい事も沢山ある。

だからこそ僕はこの一度しかない人生を楽しみながら真剣に生き抜きたい。

ねえ、頑張るよ。

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