あの日の僕(第11話)━雪とすまいる

あの日の僕(第11話)━雪とすまいる

夏はキャンプへ、冬は雪山へスキーをしに家族旅行によくでかけた。おとんの仕事が普段平日の1日しか休みがなく、あまりいつもは遊んでいないからみんなで過ごせる旅行が僕ら子供は楽しみにしていた。おとんは無口な人。二人で10分として話した記憶がない位、話さない。関西人らしくボケる時もあるけど、基本は聞き役になっている。その代わりおかんが二倍話をするから、夫婦としてうまくバランスがとれているかもしれない。

僕はスポーツが苦手で、サッカーも野球もボーリングもバスケットボールも得意じゃない。そんな中、唯一出来る運動がこの「スキー」だ。だから親には感謝している。何をやっても平均以下な自分の心を安定させていた1つであったと思う。運動神経のない僕でも、根気よくおとんが教えてくれた。おとんは僕と違って運動神経がいい。学生時代は器械体操部に入っていて、筋肉もかなりあったみたい。それなのに僕は運動がからっきしだから、遺伝ってなかなか難しいんだなと思っていた。

高い所は好きじゃないのにリフトに乗って頂上から何度も滑り降りた。そのうち中級コースも難なく最後までたどり着ける様になった。

小さなかまくらを作ったり、家族で雪を投げ合ったりもした。その時の写真があるけど、おとんとおかんのポーズがおもしろい。笑わせようとしてはいないのに、何故か笑える。ここに載せたいものの、多分二人が困るからやめておく。ほっこりする写真。楽しそうな二人と僕たち。

時々その写真を見返す。楽しい時間。楽しいしかなかった時間。大切な時間。過去には二度と戻れないのはわかっているのに、戻れるなら戻ってもいいと思う日。僕はこの二人の子供でよかった。そしてこの兄、この妹でよかった。昔は兄弟喧嘩もしたのに、もうきっとする事はないだろう。大切な人たち。みんなの幸せを心から願っている。

そういえば、スキー旅行は楽しかったのに、「ちょっとスキー旅行をやめようか?」という話になった年がある。毎年、スキー旅行の後、ほどなくして親戚が続けて亡くなっていたのを、スキーのせいにしかけた。「そんなの全く関係ないのでは?」なんて思っていても言えなかった。
今なら言えるのにね。

家族旅行は小学校時代で一旦終わった。その次は僕が大人になってから。「家族旅行」という言葉を目にするとこのスキー旅行がまっさき浮かぶ程、僕にとって特別な時間であった。僕が両親にしっかりと愛されていた時間。

「まわりと何か自分は違う」という違和感を覚えながらも生きてきた僕を支えてくれた家族。

居心地のいい世界。
ずっとこの中で最後まで生きたかった。この家族以外で自分を理解してくれる人なんていないと本気で思っていた。学校に居場所はなかったけど、ここには僕の居場所はあった。

そういえば、しばらくスキーをしていないな。久しぶりにしてみようかな。

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