ヒハマタノボリクリカエス 3

 初めて病院に行った日から、精神科で処方された薬をきちんと服用している。
 これで三日目。
 まだ心臓の痛みは消えないけれど、少しましになった気がする。とりあえず、これにかけてみるしかない。だから医者に言われたことは守っている。
 朝、晩、食後に一錠だけ。
 この薬は、飲み始めてもすぐに効果は出ないらしく、しばらく飲み続ける必要があるらしい。
 今は我慢だ。
 今日は水曜日。
 学校は自主的に休んだ。
 両親は共働きだから、学校に連絡さえすれば休んでもばれはしない。早々に大学も受かり、普段欠席もせず担任に目をつけられていない私は、風邪というだけで簡単に休めた。
 さて、何をしよう。
 けれども、何もする気が起きない。
 とりあえず携帯電話の電源は切った。
 勿論、友達には今日休むと連絡してからだ。
 女子高生は色々とメンドクサイ。
 私はパジャマ代わりのジャージから着替えず、ベッドの上に寝ころび、ずっと天井を眺めていた。
 やっぱりいくら見ても白い天井は白い天井だ。
 壁にかけている時計の針は十一時三十五分を指している。
 やっと起き上がり、パソコンを立ち上げた。
 検索画面の中でカーソルを動かした。半年前、親にねだって買ってもらったはいいが、これまでたいして使いこなしていない、親不孝の象徴。
 いつもは見るのは有名人のブログくらい。勉強でなんて少しも活用していない。ただ、みんなが持っていたから持ちたいと思っただけ。学校のパソコンの授業のおかげでそれなりに詳しいけれど、パソコン自体にさして興味は湧かなかった。
 有名人のブログは今更みる気になれない。
 じゃあ、何を調べる。
 とりあえず最近はやっている音楽か。
 しかし、興味なし。
 とりあえず、芸能ニュースか。
 興味なし。

 手が止まってしまった。
 なぜか、病院の受付での光景が蘇った。
 あの男の人、名前は何ていうのだろうかな。
 何をしている人なのだろう。
 悪いけど、真面目に働いていそうには見えない。
 何才だろう。
 年上かな。
 同じ年かな。
 やばいぞ、ミホ、いくら彼氏がいない歴半年だからといって、目が合っただけの男に惹かれてどうする、しっかりしろ。
 だが、彼に惹かれているのは事実だ。
 ああ、もう一度会えるかな。
 あ、会えたとしてもどうにもならないか。
 赤の他人にいきなり話しかける勇気なんて私にはない。

 パソコンの前にもうどれくらいいるのだろう。
 ちっとも手は動いてくれない。
 「精神科」と何となく検索してみた。
 一万件以上ヒットした。
 私は精神障害なのだろうか。
 病名は?
 私は病気なの?
 不安だ。
 こういう時頼れる人もいない。
 私は彼氏と別れても引きずらない方だと思っていたけれど、違っていたのかな。
 前の彼氏とは自然消滅した。
 遠距離恋愛だったし,お互い勉強とかで忙しく、いつしか連絡する回数が減り、会う頻度が週一から月一になってそれも最後はなくなった。
 どうかしている。
 あいつの事なんて思い出すなんて。
「あー」
 学校休んでもやることなんてなかった。
 明日から学校に行こう。
 そして、続いて、さらに精神病について調べる気になった。
 これまで別世界の話であったことも、二時間もかければそれなりに理解し始めてくる。
 そうすると、自分の病名が「うつ病」かもしれないと思えてきた。
 うつ病の説明を読むと、その症状が今の自分に当てはまることばかりで焦った。
 うつって私みたいな人がなるものなのかな?
 普通にカラオケにも行くし、友達と騒いだりもしているし。
 しかし、近頃は心から楽しんではいない。
 うつ・・・。
 これはもっと調べるべきだよね。
 こういう時のためにSNSはあると思う。
 今とくに若者の間で人気のもので調べてみた。いわゆる、そういう系のコミュニティに侵入してみる。
 数えきれない書き込みの量。この数だけ、みんな心の病と闘っているのかな。
 信じられない。初めて参加する人用の書き込みに、自分も少し入力してみた。
「はじめまして、十七歳の学生です。自分も心療内科に通い始めました、よろしくお願いします」
 愛想のかけらもない文。しかしこれだけでも反応は大きいはずだ。冗談で友達と出会い系サイトに投稿した時は、驚く程返信が届いて困惑した記憶があるから、女子高生というブランド力を私は知っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?