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【商品開発秘話-3】金型掘ったら後戻り不可。緊張感あふるる設計と試作の話。

前回の投稿から半年ほど投稿が空いてしまいました。その間、秋のギフトショー出展渋谷ロフト出品AGITO出品高機能素材week 出品など、販促活動に追われておりました。販促を頑張ったおかげで、momo Rice Plastic Plateの認知も徐々に増え、様々なお話が広がりつつあります。

その前に、momo Rice Plastic Plateの開発の裏側を語り尽くしていないので改めて執筆に向かいます。3回目の開発秘話は設計・製造に関する内容をお届けします。

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前回コンセプトが決まり、CADによる形状作成=モデリングの日々が始まりました。

デザイナーのkj_makingさんも私もCADはrhinocerosを使用していました。kj_makingさんはプラグインのGrasshopper を駆使しながら繊細な形状シュミレーションを行っていました。こういった形状の試行錯誤を怠らない姿勢は私にはない、kj_makingさんの素晴らしいところです。

開発Slack上では、kj_making さんと金型製作の氏田さんが盛んにディスカッションを重ねていました。お皿を作る金型は、型自体はとてもシンプルな構成ですが、シンプルな分、ちょっとしたあしらいで印象が大きく変わります。どのような造形処理を施せば安っぽくならないか、慎重に造形を作り込みました。非常にテクニカルで緊張感のある時間でした。

rhinocerosによるモデリング画面

金型は一度作ったらその後の修正は難しいものです。金属の塊を削って、作りたい形の外径になる部分を作り上げます。後から掘り込むことは多少可能ですが、削ってしまった後で足すことは容易ではありません。ですので3Dプリントでの試作を複数回に渡り行いました。私もスタッフとして運営に関わらせてもらっている西千葉工作室というものづくりスペースにあるFDM方式の3Dプリンターを活用しました。家庭用3Dプリンターとは違い、最大サイズ250mmまで出力できるため助かりました。

西千葉工作室の3Dプリンター・UP。造形時間は5時間ほどかかったような

FDM3Dプリンターで3回ほど出力しサイズ・形状を決めたのち千葉県産業技術支援研究所の光造形方式3Dプリンターでも出力しました。(機種:Stratasys/Objet260)スタッキングの検証のため複数枚の試作品が必要になりDMM.make3Dの出力サービスも併用しました。複数回に渡る3Dプリンターでの試作費はトータル10万円弱掛かりました。決して安くはないですが金型の切削加工に入ってから後戻りなく推進するには致し方ないと割り切りました。

産業技術支援研究所の光造形方式3Dプリンターで出力したモックアップ

3Dプリンターでの造形確認を終え、お皿の造形をFIXさせました。いよいよ金型加工への移行です。新潟の工場で氏田さんに金型設計をしてもらっている間、デザインチームではお皿裏面に施すクレジットと、お皿全体に施すシボ加工についての検討を進めました。

シボ加工とはプラスチック製品本体の肌触りと表情を決める重要な加工です。テクスチャーとも呼びます。シボ加工は私、kj_makingさん、氏田さんの3者が元々知っていたシボ加工のパイオニア、東京都大田区の日本エッチングさんにお願いすることにしました。日本エッチングさんは大手家電メーカー製品のシボ加工も手がける界隈では有名な会社さんですが私のような小規模事業者を快く受け入れてくれました。ショールームでは貴重なシボサンプルをたくさん見せてくださり最新鋭の機械も見せて頂きました。日本エッチングさんへの最初のコンタクトもTwitterだった気がします。ここでもTwitterで繋がるモノづくりですね。

シボを検討しながらお皿裏面のクレジットのデザインを起こしました。当初は金型に直接工具(刃物)で文字やグラフィックを掘り込む想定でしたが、書体のこだわりやディテールを考慮し日本エッチングさんでのレーザー加工で実現することにしました。

シボ加工の範囲指示図と裏面刻印版下

指示図には製品名であるmomo Rice Plastic Plateのロゴ、シボと鏡面の境界、スペック、取り扱い表示アイコン、製作者クレジット、生産地を明記しました。

取り扱い表示アイコンは、私のこだわりです。というのも、私が家庭で使用していた他社製のプラスチック皿は
・食洗機使用ができるもの/できないもの
・電子レンジ使用ができるもの/できないもの
が混在しています。お皿本来にはできる/できないの表記がないものがほとんどです。取説などを読む購入直後は取り扱いを覚えていますがだんだんと忘れてしまいますし、商品購入者ではない同居家族にとっては取り扱いルールがわかりません。私は購入時に同梱される取り扱い説明書はキッチンにファイリングしていますがいざお皿を洗いたい時に見る余裕はありません。そういった自身の経験から、製品裏面に書きたい内容を定めました。

裏面表記を金型に工具で直接掘り込むよりも、日本エッチングさんでのレーザー加工の方が高額になります。費用が嵩むことに少し躊躇しましたが、お皿表面は使い勝手をふまえて表情を極力抑えた分、裏面にこだわりたかったこともありレーザー加工を選択しました。

シボ加工は数々のサンプルの中から1番落ち着いた表情のシボを選びました。これはkj_making さんの感性を信じました。彼は過去の仕事で多数のシボ加工に携わった経験があり、シボによる効果・効能を熟知しています。そんな彼が選んだのが1番シンプルな梨地と呼ばれる仕上げ。シボという名称自体、革の表面の皺を指す言葉です。また日本エッチングさんが所有するシボ加工サンプルには有機物を模したものや加飾と呼ばれる表情豊かなシボが多数あります。日本エッチングさんによると高級車や高機能な産業用プリンターなどには比較的表情が強いシボが採用されているとのこと。

高級なものに採用されている=高級に見えると考えそうです。私も当初はお皿の表情を凝った顔にすることで製品が高見えできるのでは、と考えていました。が、momo Rice Plastic Plateは毎日家族が使うためのお皿です。穏やかに、慎ましやかに過ごす時間に、凝った顔は似合わない。ハレの日ではなくあくまで普通の日の朝に、一人で過ごす簡単昼ごはんに、飾らないおやつ時間に。そんなシーンでこの製品を気軽に使ってほしい。そんな思いからmomo Rice Plastic Plateはしっとりと落ち着きのある梨地のシボ加工を施すことに決めました。

開発スタートから3ヶ月、2022年の6月も終わろうとしていました。ギフトショー出展まで3ヶ月を切っていました。

3D出力した造形物にサーフェイサーを吹き付けた最終モックアップ


加工途中の金型。めっちゃきれい。

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