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チクりチクられ

小学生の頃、すぐに誰かの悪行を教師に告発する同級生の男がいた。今となっては顔も名前も出てこないが、「あいつはそういうやつだった」という記憶だけが脳の片隅に残っている。そんな顔も名前も思い出せない同級生の記憶は、昨今のハラスメント地獄を見て掘り返された。

何かといえば些細なことでもハラスメントだと刺されてしまう風潮を見て、その同級生のような人間が世の中には一定数いるのだと思った。自分自身が職場での人間関係で悩まされることなく、むしろ人に恵まれているからそう思うのかもしれないが、どうしても告発する側を「チクり」だと捉えてしまっている気がする。

大人のそれは小学生の頃より遥かに強大なダメージを与えられるが、「〇〇ハラ」ほど、先行有利で言ったもん勝ちだなと思うこともなかなかない。
あいつは今でもそんな先手必勝の心意気を忘れていないだろうか。

もっと「仲良く」したらいいのに。上司や取引先に「り」とか、返信して、打ち合わせ中に特に意味もなく、急に上司の顔をスマホで撮ってスクリーンに投影して、上司の奥さんと仲良くなって家での話を言いふらして。どうせならこっちから仕掛けていきたいところだが、そうしたら今度は上司が会議で手を挙げて「社長、この会社いじめがあります」とか言うのだろうか。

それも悪くない。
上司の走馬灯の中に登場することができたら嬉しい。うすらぼんやりとした顔でも、「あいつはそんなやつだった」と。

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