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ショートショート

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2022年6月の記事一覧

涙鉛筆2【毎週ショートショートnote】

涙鉛筆2【毎週ショートショートnote】

先月我が社が販売に漕ぎ着けた新製品、『ティアーズペンシル』通称"涙鉛筆"の売上が好調とのことだ。

どんなものでも滲ませることができる涙色の彩色ができると新しもの好きの文具女子のあいだで人気らしい。

あまりに多用すると嘘泣き鉛筆になってしまいますよ、と注意書きを入れなくてはならないくらい使われているそうで、発案したのが新入社員だというからたいしたものだと思う。

実はこの鉛筆、工場での製造方法が

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涙鉛筆【毎週ショートショートnote】

涙鉛筆【毎週ショートショートnote】

鉛筆の芯が折れたので、鉛筆削りを取り出して先を尖らせようとしたら、手の中で鉛筆が泣き出した。

鉛筆が泣くなんて初めて見たから、彼女は驚きを隠せなかった。

「なんて残酷なことをするんです?」と鉛筆は非難するような目で彼女を見て、鉛色の涙を流した。「あなたがしようとしていることは、死刑執行ですよ」

その鉛筆がいうには、短くなった鉛筆にとって、鉛筆削りはギロチンにかけられるようなものなのだそうだ。

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動かないボーナス

動かないボーナス

うちの会社のボーナスは変わってる。

普通なら給料数ヶ月分、六月と十二月あたりに支給されるものと相場は決まっているが、うちの会社はお金のかわりに、不動産をくれる。

不動産といっても戸建てやマンションの一室をもらえるわけじゃない。そんなに気前はよくない。

もらえるのは会社の工場の横にある空き地のほんのほんのひと区画である。会社の業績に応じて受け取れる数センチ四方の小さな土地。

でもそんな小さな

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動かない棒茄子

動かない棒茄子

昔、マジックバーである手品師のショーを見た。

トランプやコインを使ったいわゆるよくある手品芸を見せてくれたあと、最後に手品師はバーの冷蔵庫から一本の茄子を取り出し、置いてあった割り箸を突き刺した。

「ここにタネも仕掛けもない棒茄子があります。ところが不思議なことにこの棒茄子、絶対に動かすことができないのです。どうか試してみてください」

カウンターで見ていた客が次々に棒茄子を動かそうと掴んだり

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ショートショート王様 #毎週ショートショートnote

ショートショート王様 #毎週ショートショートnote

あるとき本のあいだに小さな王さまが佇んでいるのを見つけた。

どうして王さまか分かったかというと、頭に小さな王冠をかぶっていたからである。

「どうして暗い顔をしているんですか?」と尋ねると、王さまは顔をあげて「どうやらぼくはショートショートの星に生まれた王さまらしいんだ」と言った。「中編や長編の星じゃあなくてね」

わたしはてっきり王さまがショートショートの星に生まれて、小さい体を与えられたこと

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