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景気悪化と物価高で盛り上がる「年収」の話

以前より年収の話はTwitterなどでよく盛り上がるテーマなのですが、2022年11月からの世界的な景気後退や物価高に伴い加速しているように感じます。以前は高給取りに対して羨む程度だったのが、神経質に反応しているようにすら感じます。

私自身、転職相談や面接に関わることが多く、現職では評価制度や給与制度を設定することも多いことから年収についてのお話をまとめていきたいと思います。

自身の収入開示の意味合いと、年収を比較することの際限のなさ

年収の議論が白熱しやすい背景として、数字であるために比較しやすいというものがあります。ドラゴンボールのフリーザが「私の戦闘力は530000です」という台詞がありますが、それと似たような世界観だと考えています。

自身の年収を表明することによって、(特にそれ以下の人たちの)耳目を集められるのは事実です。情報商材屋などは年収と年商をごちゃ混ぜにしながら1000万や2000万などと吹聴しフォロワーを集めたり、金づるを集めたりします。

また、時折スタートアップで「企業別年収公開サイト」を運営するところが出てくるのですが、一過性はあるもののN数不足や所属の確からしさなどあり、あまり継続した盛り上がりにはなりません。

給与明細買い取り公開をしているサイトもあり、年収のコンテンツとしての需要を感じます。ただこちらも話題になるのは一時的ですし、(個人が特定できそうなものであれば)喜ぶのは税務署ばかりな感じで、提供する側にあまりメリットが感じられません。

お釈迦様の手の上の孫悟空

どこまで行っても「上には上が居る」という事実には抗えません。先のフリーザも登場当時は他者の追従を許さなかった530000も、その後の作品では自身が53億になったり、計測不能のキャラなどがあるそうで「上には上が居る」という状態です。

年収も同じで一般的な会社員をする範囲では年収を公開したところで上は居ます。一般のITエンジニアやコンサルタントより年収が遙かに高い営業職も多々居ます。

私が以前住んでいた賃貸マンションでは80歳を越えた話の長い大家さんが居ましたが、急行が止まる都心の駅周辺の土地をいくつか持っていて「道の反対側にもう一棟建てるんだ」的なことを話されていました。きっと勝つことはできないと感じました。

こうした方々にしてみても、上には石油王が居るわけですね。年収を巡る議論からすると、どこまで行ってもジェフ・ベゾスから見たらどんぐりの背比べなので、特に生産的なものには感じられないです。

以前も紹介しましたがソース的にフィクションかノンフィクションかは分かりませんが、非常に含蓄のあるストーリーがあります。他人との比較がどれだけキリがなく、虚無感があるかということが考えさせられるショートストーリーです。是非ご一読ください。

物価高で意味合いが変わった年収議論

2022年からの物価上昇が来て、ほぼ据え置きの給与(昇格しても月数千円アップとか)の世界で暮らせる・暮らせないの話に発展しつつあります。

東京近郊在住を言い渡されるも暮らせない新卒初任給

最近よくご相談頂くのが新卒に対する初任給のご相談です。ある程度実績を積めば年収が右肩上がりで増える会社さんであっても、「昨今の物価高を考えると暮らせないのでは?」という声があります。

日本に関して言うと90年代以降の低成長と物価上昇がこれまで大したこともあり、長らく変動していない企業もあります。昇級幅が年間数千円という話もよくあります。下記に厚生労働省 賃金構造基本統計調査を紹介しますが、バブルの余韻が消えた92年頃から初任給は伸び悩み、2015年のアベノミクスでやや増加したような形です。しかしそれでも高度経済成長期に見られたような角度ではありません。大きく「基本給を上げない30年に日本企業は慣れてしまった」と言って良いと考えています。

新規学卒者初任給(男性)  1976年~2019年
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
新規学卒者初任給(女性)  1976年~2019年
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」

しかし見直しに当たって初任給を上げるという選択肢にはいくつかの壁があります。

  • 従来はスキルベース、経験ベースで昇給することが前提だったので、ゼロスタートの人材に対して条件なしに上げるのは疑問がある

  • (30年据え置きだった初任給を踏まえ)就職氷河期世代の「俺たちの若い頃は~」論

いずれも長らく低い成長率で初任給・基本給が見直されて来なかった弊害だと感じます。活躍して社内の上位n%に入らないと徐々に生活が苦しくなる社会人は厳しいです。物価を鑑みてフラットに判断すべきお話です。基本給に物価上昇幅を足すという対応は新興国では一般的なので、そこまで夢物語ではありません。

ラジオで耳にした話で下記のようなものがありました。初任給・基本給を巡る社内の壁と同じ話だと思います。過去のことは振り切り、後進の育成を考えるべきです。

中学時代、教室にクーラーがなかった。毎年「クーラーをつけよう」という声が挙がっている。しかし1,2年生時は賛成するものの、3年生になると反対になるという文化があった。私の代で3年生時に同級生に働きかけ、「このクソな文化を終わらそう」とクーラー設置の議論を可決し、決着した。今はクーラーがついている。

多くの日本企業には基本給を上げる想定がない

一般的な年収制度を見ていくと、グレードごとに基本給のレンジが設定されており、成果に合わせてその範囲内で昇級をすることが一般的です。

フィリピン、ベトナム、インドでマネージメントをすると、物価を加味した年収増は前提になっています。予算組みも配慮しなければならない。インドだと10%、フィリピンだと私が見ていたときで3%という割合でした。

これに対し、日本は長らく全体的に物価が上がらなかったことから基本給が物価に合わせて増加していくという発想がほぼなかったと言えます。数千円ずつ技能給なり職能給なりが加算され、月給が微増する程度でも成長が感じられるという側面もありました。

数千円の昇級では日本が暫く経験しなかった物価高に対し、「頑張って評価をされても年収増加に耐えきれずに節約を強いられる」という状況が見えてきています。そのため「今より上の年収を目指さねば」「いくらあったら足りるのか」という論争に発展してしまっているように見えます。

年収を上げるために転職するというムーブメント

そこで出てくるのが「転職をして年収を上げる」という話です。中途転職では転職先にやや上がって、入社後は基本据え置き、というのを繰り返す人は少なくありませんでした。2015年-2022年11月にかけてはこの風潮が強くありました。

転職市場を見ながら自社の提示給与を見直すことができれば、多くの離職は引き留められると考えています。その次の離職理由はキャリアアップ支援、キャリアチェンジ支援が見えてくるため、ある程度叶えられる課題である可能性があります。そして、企業としては基本給の見直しや手当の提供、そして原資となる物価上昇に耐えられる事業づくりをする必要があります。

いくらあれば年収は足りるのか、という発想では不十分

物価の上昇は「年収がいくらあれば足りるか」という議論を無にしてしまいました。年収2000万円問題委などもありましたが、いずれの議論も物価上昇はほぼ入っていなかったのではないでしょうか。

上限を求めてもキリはないですが、一番厳しいのは物価据え置き時代に流行った「200-300万円台でも楽しく行きていける」という切り詰める系の言説を信じた方々かなと考えています。マージンを削りに削って200-300万円なので少しでも物価が上がれば無力です。

高度経済成長期では、年収が右肩上がりになり日本経済は発展することが前提であったため、強気のローンが組めました。そこに様々な業界が乗っかり、下記のようなテンプレートができあがりました。今だと物価の安い地方で親類縁者などで相互補助をすると一般的に見られます。

  • お受験

  • 大学進学

  • 上場企業への就職

  • 白物家電各種の購入

  • 自家用車

  • 結婚

  • 出産

  • いつかは一国一城の主(持ち家)

他にもいくつかあるとお思いますが、今この生活を単独で実行しようとするとかなり厳しいです。高層マンションなどで「少しでも上のフロアに行きたい」などというと更に大変になります。山手線の内側でないと行けない、なども厳しいですね。

もっというとバブル世代である50代の背中を見ている40代の方が、この取捨選択は不器用です。物心ついた頃から不景気な30代中盤以下などの方がシェアリングサービスなどを利用しながらうまくやりくりしている印象です。かく言う私自身、王道からは大きく離れた人生ですが、フラット35などは将来何が起きるか分からないので怖くて組めません。

往年のテンプレートを踏まえて全てをそろえなければならないという思い込みから脱却することで正しい経費が見えてきます。清貧を推奨するのではなく、自分の中で譲れない項目を選んでいき、不快感なく生きるための取捨選択と悟りが必要です。「自分がいくらあれば不快にならず、充実を感じながら生きていけるのか」を軸に、物価上昇を加味しながら必要な年収をアップデートしていくことをお勧めしています。

何でも欲しがると最終的に自家用ジェットとかの話になるので、譲れないお金の使い方を考えていくのが良いです。どうしてもタワマンの最上階でないと行けないのであれば止めませんし、フェラーリが欲しいのであれば止めません。まずは自己の対話から何がセンターピンなのかを発見するところから始めましょう。


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