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まずは目の前の人の声を聞く~映画『ミツバチと私』感想(ネタバレなし)~


(以下、映画『ミツバチと私』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレはありません。ただし、映画に関する情報を出来るだけ入れないで鑑賞したいという方はご注意ください。)



ベルリン国際映画祭で9歳にして最優秀主演俳優賞を受賞したソフィア・オテロの演技に心が奪われるとともに、美しい自然の風景とそこで繰り広げられる主人公と家族の葛藤と変化の物語に惹きつけられました。

主人公であるココの成長だけではなく、ココを取り巻く人たちを丁寧に描いていたのが印象的でした。
ココが抱える苦悩になかなか理解を示せない登場人物たちは、単に主人公にとっての障壁や乗り越えるべき障害もしくは背景として存在するのではなく、一人一人の価値観や人生が感じられるように描かれていたと思います。アネやリタが、どのような人間関係で悩み、どのような信念を持っていて、何に苦しんでいるのかというのが細かく描写されるからこそ、ココと家族の軋轢が胸に迫ってきます。

また、二カ国にまたがり幾つもの文化が混ざり合うバスク地方を舞台にして、社会性を持つハチを人間社会の隠喩として登場させるなど、重層的な語りの上手さにも舌を巻きました。

そして、ストーリーが最終的に完全に問題が解決するわけでもないが絶望が訪れるわけでもない、いわば分かりやすい結末を避けているように見えましたが、そのように映画的な気持ちのいい「物語」に落とし込まないところに、作り手の誠実さが現れていたと思います。

この映画を見た私たち一人ひとりが、まずは、目の前にいる人の声にしっかり耳を傾けようと思えるような素敵な作品でした。

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