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素晴らしい脚色~映画『夜明けのすべて』感想(ネタバレあり)~

(以下、映画『夜明けのすべて』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)


瀬尾まいこさんの原作を読んだ上で、映画を見に行ったのですが、脚色が本当に見事だったと思いました。

まず大きな変更点として、主人公たちが務める会社が原作の「栗田金属」から、プラネタリウムを扱う「栗田科学」に変わっています。このことにより、本作のテーマになっている「夜」について、プラネタリウムを通じて自然に語られる構造になっており、巧みな舞台設定だと唸らされました。さらに、栗田科学の社長の亡くなった弟が約30年前に残した音声を、山添と藤沢がテープ起こしして移動式プラネタリウムの原稿に採用するという流れも、劇中で語られていた「何万年も前の星の光が今私たちの目に届いている」という話と上手くリンクしていたと思います。暗闇でみんなでプラネタリウムを見る風景も、映画館で映画を見る光景と重なるものがあり、映画でこそ活きる優れた設定だとも感じました。

そして、各登場人物の原作小説からの改変や掘り下げも、原作とは違う映画ならではの魅力を生み出していたと思います。
例えば、藤沢の母親や、山添の恋人や上司は小説よりも出番が多く、物語により深く関わっています。それぞれ、藤沢の母親の倫子はパーキンソン病を患ってリハビリに励んでいる様子が、山添の恋人の大島千尋は山添の病気に寄り添おうと努力する姿が描かれ、山添の上司の辻本は家族を亡くしたことに苦しんでいます。これらのキャラクター描写によって、作品世界が主人公二人を成長させるための「装置」と化するのではなく、脇役でも、その世界の一人ひとりがそれぞれの事情、それぞれの立場で懸命に毎日を生きているんだということを観客が感じ取れるようになっていたと思います。
また、もっと細かい部分で言うと、「栗田金属」に勤める住川は、原作では藤沢が買ってきたシュークリームについて「若い子からもらったほうがおじさんたちは喜ぶんだから、美紗ちゃん渡してよ。」と言ったり、やたらと山添と藤沢が恋仲なのではと疑ったりしますが、映画ではそういったセリフや描写はカットされています。一言で言うと「アップデートされた」ということになるんでしょうが、原作の描写を機械的に映像にトレースするのではなく、丁寧に「このセリフは変えた方がいいか。」「このエピソードは映像にしない方がいいか。」と一つ一つ考え抜いて映画化している様子が伝わってきて、印象に残りました。

他にも、丁度良いサイズの手編みの手袋を送り直してもらう描写が、藤沢が自分の居場所を見つける過程と重ねられるようだったり、前半で山添と藤沢が端っこを歩いていた道を後半では二人で真ん中を歩いていたり、上げていけばキリがないほど、原作をリスペクトしつつ映画ならではの独自の語り口を見せている描写が、沢山印象に残りました。

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