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俳優の演技に惹きつけられるフィルムノワール〜『辰巳』感想(ネタバレあり)〜


(以下、映画『辰巳』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)


映画『レオン』を思わせる物語と俳優のむき出しの演技に惹きつけられる、フィルムノワールの傑作でした。

涎を垂らしたり、唾を吐きかけたり、汚い罵り言葉を口にするなど、キャラクターたちが本能のおもむくままに行動する様が描かれますが、そこにはわざとらしい下品さではなく、「この人たちはずっとこういう生活を送ってるんだろうな。」と思えるような自然さを感じました。また、顔に唾を吐くシークエンスが繰り返されたり、罵り合いが漫才のようなテンポ感になったりと、シリアスなシーンの中にもユーモアが散りばめられていたのも印象に残りました。

葵が隠れて銃を構えるシーンなど、限られたスケール感の中でいかに映画的に面白く見せるかを考え抜いた工夫の数々も、見応えがありました。また、全編考えつくされて作られているからこそ、ラスト近くでとある人物が一筋の涙を流すシーンなど、偶発性のあるカットの魅力がより際立っていたと思います。
辰巳と葵が車の修理を通じて心を通わせて、ラストではその車が辰巳から葵に受け継がれるという、車を通じて映像的に2人の関係性を描いていく表現も見事でした。

私は5月1日に渋谷のユーロスペースで開催された、小路監督と遠藤雄弥さん、後藤剛範(ごとうたけのり)さん、ヨーロッパ企画の永野宗典(ながのむねのり)さんのトークショー付きの上映回を見たのですが(以下覚え書きなので正確な言葉ではないかもしれませんが)、
「5年ほど前に撮影していたが、その後、編集や追加撮影をかなりやっていた。よく見ると、髪型が変わっているのがわかるところがある。」
「リハーサル期間を長めにとって、俳優同士で即興劇を行ったりした。主演の遠藤雄弥さんと監督は、ラーメン屋で役について何時間も話し合った。」
などの裏話を聞くことができ、自主制作映画だからこそ可能なスケジュールで丁寧に丁寧に作り上げて、これほど完成度の高い作品に仕上がったのだなとおおいに納得しました。

最後に、パンフレットがキャスト・スタッフのインタビューはもちろんのこと、オマージュ作品紹介やシナリオも収録された盛り沢山の内容で、大変読み応えがありました。

映画『辰巳』の舞台挨拶
映画『辰巳』の舞台挨拶

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