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【KLDマガジン】自治体職員育成の切り札!?兼業(副業)はなぜ進まない?

※この記事の収益はKAWASAKI LOCAL DOORの運営資金に充てさせていただきます。

ちょっと前に生駒市などで自治体職員の兼業(副業)促進がされているニュースをご覧になった方もいらっしゃるのではないかと思います。

一部では変革の動きが見え始めましたが、兼業に後ろ向きな自治体がまだ多いのが現実です。そこで総務省も兼業許可の基準を明確化すべしとの通知を発出し、もう2年が経ちました。

ところが状況はそこまで進捗しておらず、あろうことか兼業申請をせず兼業をして処分される自治体職員も後を絶ちません。(この辺りは結構根深い問題があるのですが、マスコミの方々も表面的な処分の面のみを報じて本質に立ち入らないのは残念だなと感じています。)

そこで、最近の動向や一般論を無料部分に、ちょっと生々しい部分を有料部分として記事にしたいと思います。

兼業は公務員がお金の動きや経営を学ぶために有効なツール

まずそもそもなぜ兼業が必要なのかという話です。前掲の総務省通知ではこんなふうにまとめられています。

近年、多様で柔軟な働き方への需要の高まりや人口減少に伴う人材の希少化等を背景として、民間労働政策において兼業や副業が促進されており、地方公務員も地域社会のコーディネーター等として、公務以外でも活躍することが期待されるようになっています。

要は人減ってヤバイので、自治体職員も仕事に限らずちゃんと報酬を受け取ってもらって地域課題を解決していきましょう、ということです。

もちろんそういう部分もありますが、むしろ自治体職員は仕事の性質上予算事業ばかりやっており、お金をやりくりしながら地域課題を解決するような「経営」をする機会がありません。

自治体職員が自らそういった「経営」を小さくとも実践し学べば、民間プレイヤーとのパートナーシップ上で非常に有利な共通言語になると考えられます。今は公民が連携して地域課題を解決していくことが重要ですから、兼業をすることで本業にも跳ね返って活かすことができるようになるのです。

自治体職員が「禁止」され「許可」を必要とする”兼業”とは何か?

さて自治体職員は「地方公務員法第38条」によって”兼業”を一律禁止され、そのうえで「許可を取ればやってよい」ということになっています。(各自治体の人事委員会規則などで若干の付け足しがある場合もありますが、主旨は地方公務員法第38条の枠を超えられません。)

まず何が禁止されているかというと、①営利団体の役員等を兼ねること、②自ら営利企業を営むこと、③報酬を得て事業又は事務に従事すること、の三つです。要は株式会社などを立ち上げたり、その役員になる、また(相手を問わず)報酬をもらって何か作業をする、とかには許可が必要だよということです。

これらがなぜ許可を要するのかというと、①職務の能率の確保、②職務の公正の確保、③職員の品位の保持、といった観点になります。要は、「①兼業し過ぎてクタクタになり本業の能率が下がったら困る」「②許認可や契約関係がある利害関係者から報酬をもらうのはまずい」「③信用失墜になるようなヤバイ仕事をされるのは困る」ということです。

まあこれ自体は許可制とすべき至極真っ当な理由ですよね。ただしもちろん、兼業申請を不許可とするには、これらの理由に該当することを立証する必要がある、ということになります。

無報酬で非営利団体の役員等になることや実費弁償は「禁止されていない」

ところで、逆に「禁止されておらず、許可を取る必要がない」ことも整理しておきましょう。(一応、各自治体個別の規則には注意してください。)

まず①非営利団体の代表や役員等に無報酬で就任すること、②(例え営利企業相手でも)無報酬でボランティアをすること、③(交通費等の)実費弁償を受け取ること、は原則禁止されていません。これは総務省資料の「地方公務員の社会貢献活動に関する兼業について」(P7)にも例示がされています。

非営利団体とはNPOや一般社団法人などを指します。ちなみに私の運営するKAWASAKI LOCAL DOORも団体規約上非営利と明記し、報酬も受け取っていません。プライベートの活動ですが兼業云々の枠外で適法にやる、という手段を取っています。

なお「非営利」の定義は下記Q2に一般的な考え方が記載されています。要は利益余剰金を関係者に配当しない、ということですね。

 「営利を目的としない」とは、活動によって得た利益を構成員で配分しないということを意味します。団体の活動で収益があった場合には、人件費や消耗品費、交通費等の必要経費に充て、さらに剰余金(利益)が生じた場合、構成員(社員、正会員等)で分けず、次年度の事業に使います。「営利を目的としない」とは、無償でサービス等を行わなければならないという意味ではありません

ちなみにですが、株式投資などを行うことも兼業にあたりません。

損害賠償請求訴訟も!好き勝手に「不許可」にできるわけではない。

さて話を戻して兼業許可のケースです。まずほとんどの自治体は「行政手続法」をほぼ丸コピペした「行政手続条例」というものを制定しているはずです。

なんでその話を持ち出したかというと、自治体職員が兼業許可をした場合に、①職務の能率の確保、②職務の公正の確保、③職員の品位の保持、といった観点を見つつ、「行政手続条例」に則って許可・不許可の判断をしなければいけないのです。

もっと具体的に言うと、不許可にする場合には、「なぜ不許可にしたのかを(改善し再申請する場合の修正点が分かるように)明確にし回答しなければならない」ということになるからです。

要は、「あなた人事評価標準に達してないですよね、まず本業しっかり能率的にやらないとダメじゃないですか?」とか、「その報酬をくれる会社、あなたが業務で契約してるところですよね。それは利害関係者にあたり疑念を抱かれるおそれがあるのでダメです。」とか。法律に則りなるほどとなる理由がないといけません。

「社会的に善いことだから特別に許可しよう」ではないのです。不許可とすべき合理的理由がなければ許可しなければいけない、というのがそもそも許可行政の基本のキです。

そこら辺が甘かったのか、趣味で描かれていた育児漫画を出版しようとした教員が不当に兼業許可を制限されたとして損害賠償請求訴訟になっている事例がこちら。

教員の兼業が、不明瞭な基準のもと制限されています。教員の兼業は法律上、本務遂行に支障のない限り認められると規定されています。原告は上記の規定を踏まえ、都に対し書籍出版に関する兼業許可を求めましたが、都はこれを認めず、判断の基準も示しませんでした。兼業は、教員の能力を磨く機会となるだけでなく、得た経験や知識は、教育活動を通じて子供たちに還元されます。豊かな教育の実現のため、基準の明確化を求めます。

訴訟継続中ですが、判決が出たら訴訟資料から状況を読み取ってみたいと思います。

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