見出し画像

真の試練は2030後に来る。川崎市の人口動態と財政の現状分析

先月修了した都市経営プロスクですが、引き続き学びは継続していこうねという話になり、OBOGの方も交えて「読書部」が創設されました。

テーマも今回はガッツリ深めてみようということで、6月まで「人口動態」をテーマに課題図書を読みながら都市における人と金との動きを捉えていきます。

さて初回ということで課題図書に入る前に、川崎市の現状について整理をしておきたいと思います。また以後一連の記事については以下の点についてご留意ください。

・noteの内容は個人的な試論であり、もちろん市の公式見解ではないこと。
・読者のみなさまとの意見交換を経てより洗練させていくので、過去の意見と違うことを述べる場合もあること。

社会保障費増により赤字だが人口増と大規模投資抑制で中期的には安定を目途

まず最初にですが、自治体の経営状況をきちんと捉えるのは実は意外と難しいんですよね。

川崎市の令和3年度予算案を見てみると、川崎市全体の年間財政規模は約1兆5千億円ですが、収入と支出の目的が限定されている「特別会計」や、独自の収入がある病院や交通バスなどの「企業会計」を除いた「一般会計」の規模は約8200億円です。

さらに、そのうち市税収入は予算ベースで約3450億円。一般会計ベースでも約4割くらいしか市税収入のウェイトはありません。残りは国からの交付金、公債費、そして繰入金などによって構成されています。

さてより実際的な自治体経営の状況を見るには、自治体固有の市税収入からどれだけの事業への支出が構成されているのか、そしてそのベースで収支均衡が保たれているのか、ということを検討しなければなりません。一見事業金額が多く見えても、それが国からの交付金などで運営されている事業であれば、そこは削っても額面ほどのインパクトがないこともあるし、そもそも法令上撤退不可能な”強制下請け事業”であるケースもあります。(マイナンバー制度関連業務のように)

ここで市税ベースに限った経営状況をシンプルに表現し、今後の市政運営の基礎となっているのが、平成29年度末に改正された「今後の財政運営の基本的な考え方」という資料です。

ここの9ページに平成30年から平成39年(令和9年)までの10年間のコアな予測値が掲載されています。ここを読み解くと下記のようなところでしょうか。

収支フレーム(ポイント)

・引き続き堅調な人口増と若干の経済成長を想定している。

・新規大規模投資をやめ、既存大規模投資の順次完結でソフトランディングを目指している。

・高齢者福祉や保育事業の需要増で支出増が止まらない。

・まとめると、社会保障費の増で現状で赤字が出ており、減債基金(別の借金返済のための積立金)からの借入で急場を凌いでいるが、税収増と大規模投資の抑制で中期的安定を狙っている。

といったところでしょうか。ちなみに、実際の過年度決算を見ていくとこの予測値よりは緩和された結果が出ています。平成30年度の赤字(減債基金借入額)は予測値̠196億円に対し決算は133億円、平成31年度(令和元年度)は予測値158億円に対し決算は95億円。

色々と努力しながら中期的安定に向け進んでいましたが、これもコロナでおじゃん。令和3年度予算案ではこの減債基金借入額は予測値64億円に対し286億円と大幅増。今後行われる令和2年度決算でも赤字の大幅増が見込まれています。

コロナによる税収減はリーマンショック超え、大規模投資的事業の前倒しでの見直しへ

さて令和3年度案における市税収入見込みは前年度比マイナス5%となっています。これは平成21年度のリーマンショック直後のマイナス2.9%を大幅に上回っており、そりゃ赤字も爆増するだろうな・・・という数値が出ています。

もちろん支出面も減らさなければまずいということで、もともとソフトランディングで削減することを目指していた大規模投資的事業を前倒して見直すという方針が出ています。

なおプレス資料を読むとなんとも歯切れの悪いモニョモニョ感がありますが・・・あくまで個人的な解釈ですが、政治サイドの動きも横目に見ながらの”滲みだし”なのかなという気がしますね。このあたり、しっかりと決めきれるかどうかは財政の中期的安定に向けて重要なターニングポイントになるでしょう。

2020年人口増加率大幅鈍化の主要因は外国人流入のストップ、手ごろなファミリー向け物件不足も

このところ川崎市の税収増に貢献してきたのは人口増加です。

ちなみに人口増加が具体的にいくら貢献している?というと正確に積み上げられるデータがないし、経済成長率や法人市民税や固定資産税への影響などをどこまで反映させるべきなのかなど難しい部分を含みますが・・・ざっくり、人口を全個人市民税で割ると1人あたり10万円程度になり、それに人口増分として1万人をかけると10億円程度になりますので、少なくとも毎年度そのくらいは上積みされていると考えられます。

社会保障費の増が新規人口というよりは既存人口から多く発生しているとするならば、人口増加によって全体の社会保障費の増の影響を緩和できていると言えますね。

さて上記P2の図1を見ると人口動態についてはよく分かるかと思います。自然増減(出生数ー死亡数)はプラスではあるものの一貫して減少し続けていますが、社会増が堅調であるため、ここ数年は1万数千人の人口増加が続いています。

人口増

なお令和2年度の人口増加数は7,300人程度と前年度に比べ6,500人ほど減っています。ただし、この減少数のうち2/3程度の4,200人ほどは外国人住民の流入停止の影響であって、国内の人口動態による影響は限定的です。(同資料P3)

残る国内移動もコロナ控えがあることを考えれば、いわゆるワーケーションのような生活スタイルの変化による影響は現状であまり見られないと言えるでしょう。

次に世代と地域を含めた人の動きを見てみます。

5歳ごと

地域

P9の図5・6とP11の図7を見てみます。川崎市の人の動きとしては、15~30歳くらいに人が全国から流入し、その後で若干子育て世代が横浜市などに流出するという構造になっています。

実は、私も結婚して子どもを考え始めてから川崎市から横浜市に転出しています。これはなぜかというと、市内の希望するエリアに手ごろなファミリー向けの物件がなかったからですね。手の届かない駅近の物件はあっても、サラリーマン共働き家庭にちょうどよい価格帯の物件となると、新築も出たり出なかったりまばらで中古も高いままなので、ライフステージ変化のタイミングによっては川崎市内が選択肢になってこないのです。

そんな体験も踏まえながらこの人口動態にストーリーをつけてみると、下記のようなところでしょうか。

・就学や就職にあわせて若い世代が東京都市圏に吸い上げられる流れで川崎市も人口が増えている。

・ファミリー世代がライフステージの変化にあわせ物件価格の手頃な近隣郊外に流出している。

ただし、このファミリー世代の流出を解決すべき課題と言ってよいかはまだ保留すべきでしょう。裏を返せば不動産価格が高く維持されており施設効率が良いと考えることもできるからです。

根性論での人減らしに限界、制度ごとの合理化が必要

今度は行政内部の状況も見てみましょう。財政安定化にはウェイトの大きい人件費をどう取り扱っていくか、ということも重要です。分かりやすくまとまっている下記の資料を参照します。

人件費

P14の歳出内訳に人件費の推移が出ています。H21年度に1,033億円だった人件費はH26年度に906億円で最小となり、若干増のあと、H29年度に教職員の人件費が県から(財源ごと)政令市に移管されてきたため大幅に増加しています。

人件費2

人件費3

同資料P17-18にある政令指定都市比較でも、まあ低めの水準であると言ってよいのではないかと思います。

ここでポイントになるのは、そもそも教職員給与のような労働集約的な要素を引き受けると人件費率が自動的に引きあがるということです。また、過去に進めてきた保育園の民営化(令和3年度で若干の公立園を残し完結予定)では、逆に労働集約的な業務を公から民に移し人件費率を下げているわけですが、結局のところその人件費は民間保育所委託費として扶助費に乗っかってくるため、見方によれば科目が振り変わっているだけとも言えます。

ちなみにH26→H27で人件費が増加していますが、ここは働き方改革が本格化したタイミングでもありますね。H26当時私は保育行政に携わっていましたが、増え続ける民間保育所の数に見合った人員増はなくデスマーチ状態。私もストレスで朝から晩まで鼻血が止まらなかったり、他にも原因不明の血尿出す人、胸が苦しいと言い胸とキーボードを同時に叩きながら仕事する人、目をパチクリさせながら視野が白黒になったと訴える人などが続出し、隣の課ではボコボコ人がつぶれていなくなる有様・・・。(なお現在は当時の3倍くらいの人員に増えているようでした。)

さてでは人件費を削る余地がないかと言うと、ないこともないのです。単に「効率化」と念仏を唱えてるだけでは完全に無理で現場崩壊を巻き起こしますが、そもそも無駄に仕事を労働集約的にさせてるシステム自体が変わってしまえばいいのです。

自治体業務のかなりのウェイトは、保育事業もそうですが、実質的には国の下請けみたいなものです。なので国のスキーム設計に業務上大きな影響を受けるわけですが、これが複雑で分かりにくいのです。まあ様々な団体が好き勝手言ってる結果でもあるのであんまり国を責めても仕方ないのですが・・・。

だいたいポンチ絵の理念ベースでは国のスキームも理路整然としているのですが、法令に落とし込まれた時に解読困難なプログラミング言語となり、結果自治体に落ちてくる制度は意味不明、そこを会計検査院が揚げ足を取ってまわり、現場が混乱に陥る。もうちょっと現場ベースでのシンプルさを追求していかないと、なかなか間接コストも減っていかないかなと思います。

もう一つ言うとマイナンバーカード関係のガードの総務省の固さです。

LINEで住民票を取れるシステムを作った渋谷区に対しマイナンバー制度に拘る総務省が待ったをかけています。「なりすまし」というのも一見もっともな言い分ですが、そもそも郵送申請なら現状でこのLINE申請と同じ確認書類でOKなんですよね。

未だにマイナンバー反対派の動きもあるため総務省もセンシティブになるのは理解はできるのですが・・・。もう少しサイレントマジョリティを見れるとよいのかなと思います、大変さも分かるのですが・・・。

それでもやっぱり、マイナンバーのパスワード変更が対面必須でなければコロナ禍で区役所に行列ができることもなかったし、あの10万円給付業務のマイナンバー申請をクソユーザビリティで自治体にぶん投げて来なければ、「ぱそこんが壊れたなんとかしろ」という高齢者のクレームに時間を取られる職員も少なくて済んだわけです。

他にもいろいろありますが、まあこの辺で。とにかく社会と制度が変化しようとしない根性論での効率化は難しいでしょう。

頼りの人口増が終了する2030年後のグランドデザインが空白

このような状況にある川崎市の人口動態及び財政ですが、真の困難は2030年以後にあります。というのも、ここを境についに川崎市も人口減少時代に突入するからです。(既にそうなっている自治体も多いという点では、恵まれている方ですが。)

将来人口推計

もちろん人口減少がはじまってからも高齢化は継続します。こうなると、総生産高の減少による税収減と社会保障費の増というダブルパンチを同時に攻略していかないといけなくなります。確実に、行政サービスが対処できる範囲は限定されていくでしょう。

現在は目下中期的な赤字=減債基金新規借入の終結に向けて進んでいるところですが、このコロナ禍でそれが上手く進んだとしても、その後に新たな、しかもより強大な試練が迫ってきているということです。

そしてそれに対処するには、自治体経営だけで考えるのではなく、公民連携による都市経営の視点が必要になることは間違いありません。

今後の読書部での活動では、人口動態に関する課題図書を読みながら、このあたりの難しいグランドデザインのヒントを探っていきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?